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✞ 木漏れ日の頃6 ✞

2022/11/01
文字数:約653文字

   【 欠勤2 】

 何もないよ。
 何も無かった事にするの。
 誰も何も知らなければ良いの。


 電車に乗る気もない。
 連絡する気もない。
『あー、やばい。無断欠勤しちゃった。』
 淡々とそんな事を思った。


 携帯の電源はとっくにOFFにしてある。
 煩わしかった。

 切って切って切って……
 腕が赤くなる。

 そのうち風が吹いてきた。
 草が風に揺らいでいた。
 雨が止んで、光が降り注いでいた。

 切るのを止めて、外の変化をぼんやりと眺めた。
 絵を描きたくなって、紙とボールペンを取り出した。
 描いて描いて描いて……

 描いた後、紙を破り捨てた。

 痛かった。
 せっかく描いた絵を自分の手で、捨てる。
 絵が嫌いなわけじゃない。
 どんな落書きも捨てる為に書くことなんて、した事がなかった。
 いつも捨てられなくて溜まってしまう。
 腕の傷よりも痛かった。


 1時過ぎ……会社の人が来るとしたら1時前ぐらい。
 もうそろそろいいかな。
 気もすんだし。

 家に帰ることにした。

 靴を脱いで、裸足になる。
 アスファルトの感覚が足に伝わってきた。
 気持ちよかった。

 家では、母が心配していた。
「襲われたの?」
 裸足の私を見た母が言った。
「えー。誰に? こんな昼間から?」
 私は笑って答えた。

 指導者さんも家に来ていたと聞いた。
 会社に電話して、指導者さんに電話した。
「心配したよ」と言われた。
 だけど、私にとってそれは実感がなかった。
 迷惑をかけたのは実感していた。
 駅でも、心配されてる事は頭の中になかった。


 次の日が休みで良かったと、ふと思った。




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