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✞ 13話 人形の記憶1 ✞

2023/02/13
文字数:約864文字
 保育園では、時々工作がある。
 その時は、数人でグループを作って、菓子箱などでおひなさまを作った。
 ひな壇を作って、子供の背丈くらいの高さにおひなさまを飾って、その下は女官などを飾った。
 それぞれのグループが、個性的なおひなさまを作っていた。
 おひな様だけではなく、全く別の物を作ったグループもあった。

 作ったおひなさまは、数日間飾られていた。

 その日、皆は園庭に出て遊んでいた。
 私はいつもの通り壁とお友達になっていた。
 園庭に面した教室の窓は開いていて、出入りが自由だった。
 おひなさまを飾った教室も開いていて、時々誰かが出入りしていた。
 窓の傍に立って、中をのぞいてみた。

 と、何かが床に転がっているのが見えた。
 よく見ると、小さな乳酸菌飲料の空に画用紙か折り紙が張られていて、おだいりさまになっている。
 ひな壇を見上げると、おひなさまだけがそこにいておだいりさまがいなかった。

 放っておけばいいけれども、どうしても気になった私は靴を脱いだ。
 教室の床に足を付けて、そぉうと小さな乳酸菌飲料の空に近づいた。
 おだいりさまが壊れている様子はない。
 単に落ちただけなら、早く戻してここから出ようと思った。
 おだいりさまをひな壇に戻そうとした時

「あーー。いけないんだ!!」

 誰かの声が響いた。
「壊している!」
 その声で私は固まった。
 おだいりさまは、まだ私の手の中。
 声の主を見たらいいのか。この教室から飛び出したらいいのか。おだいりさまを戻したらいいのか。
 どうしたらいいのか分からなかった。

 そうこうしているうちに、先生がやってきた。
「あなたが壊したの?」
 私は無言のまま何も答えなかった。
 先生は私の手からおだいりさまを取ると、ひな壇に乗せた。
「ほら、皆外で遊んでいるよ。あなたも外に行って、ここには近づかないで」
 そう言って、外に追いやられた。

 しかられたわけではない。
 けれど、『違う』の一言が言えなかった。
 誰がどう見ても、あれは「壊した」と思われて当然だとも思った。
 それでも、壊したと思われたことがショックだった。




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