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✞ 11話 虫歯の作文 ✞

2023/02/15
文字数:約912文字
 毎年、虫歯の作品の受賞者は、全校集会でその作文を読む。
 いつもは「早く終わらないかな」と思っている集会。
 その年は「こんな風に書くと選ばれるんだ」と思いながら聞いていた。
 そして、次の年は前年の作文内容を思い出しつつ、自分の作文に取り入れてみた。

 賞を取りたいとか、選ばれたいとか、褒められたいという気持ちは欠片もなかった。
 あったのは「原稿用紙のマスを埋めたい」という気持ちだけ。
 けれども、その作文は賞に選ばれてしまった。

 一瞬、『嬉しい』と思った気持ちは、即座に「発表なんて無理」に変わった。
 何度も書いているけれども、私はおしゃべりが苦手だ。
 全校集会で作文を読むなんて、ハードルが高すぎる。
 手元に返ってきた作文を、破り捨ててしまいたい衝動にかられた。

 けれど、そうすることもできずジレンマと共にリハーサルの日になった。
 リハーサルなので、人は居ない。
 それでも、ステージに上がると心臓は破裂しそうなほど、鼓動を速めた。
 順番が来て、ぎこちない手つきで作文を開いて読み始める。
「もう少し、大きな声で」
 と、先生から注意がはいる事、数回。最後まで読み終えて、次の人に替わった。

 ステージから降りると、担任が私の元にやってきた。
「緊張しただろ。緊張しない方法を教えてやる。
 下にいる人間はみんな、ジャガイモだと思えばいいんだ」
 ポカンとしている私に、先生は続ける。
「想像してみろ。たくさんのジャガイモが並んでいる。
 ジャガイモじゃなかったら、カボチャでもニンジンでも好きに想像したらいい」

 私の頭の中に、並んだジャガイモが浮かんだ。思わず笑ってしまう。
「ほらな。面白いだろ」
 担任は「当日もその調子で頑張れ」と言って、去って行った。


 当日は緊張した。ジャガイモを想像しても、緊張は解けない。
 顔はリハーサルよりも赤くなっていただろうし、作文も何度もつまってしまったように感じたし、声も出ていなかったかもしれない。
 真っ白な頭でステージを降りた。

 うまくいったのかどうかさえ、よく分かっていなかった。
 けれども、担任が「よくやった。うまく読めていた」と言うので、ホッとした。
 この発表は私の中ではちょっとした自信になった。




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