文字数:約648文字
【 化粧 】
嫌いなの。短いスカートも化粧も、嫌い。
大人になりたかったわけじゃない。
その日は暑くて、スカートをはいて行った。
「スカートはいてくるの、初めてだね」
先輩が私のスカートに気がついて言う。
それに続いて、指導者さんも私を見た。
「いいね。そーいうのも。でも、もっと短い方が良いよ」
私はスカートを一回、腰の所で巻いてみる。
「もっと。ちょっと、ごめん」
そう言って、指導者さんが膝が見えるくらいまで巻き上げる。
「ほら、こっちの方がかわいい」
「うん。さっきよりいいよ」
先輩も同じように私を誉めた。
だけど、私は嫌だった。
スカートを履くこと嫌さえだった。
「だね。この方がお客への印象もいいよ」
男の客への?
どこかで苦笑いしている私がいた。
私の気持ちとは裏腹に、話が変わる。
「それにもう、社会人なんだからちゃんと化粧した方がいいよ」
「前に、グロスあげたよね? どうしたの?」
指導者さんから貰ったグロスは、カバンの中で一度も使った事はなかった。
「えーと」
私は言葉を濁す。お化粧も嫌い。
「今度、つけて来てね」
それでその時は話が終わった。
だけど、私がそれをつける事は無かった。
試験に合格した頃に一度、指導者さんにお化粧された事があった。
簡単に顔を弄られただけだけ。
その時に「使いかけだけど、あげる」と言われて、グロスを貰った。
帰って私の顔を見た家族は笑った。
「変わったねぇ」や「何、おもちゃにされてるの?」と、散々言われる。
私も「何やってるんだろうねぇ」と笑った。
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