文字数:約1127文字
【 涙雨1 】
何をしたいのだろう。何をしているんだろう。
どうして、こうしてるの?
毎日続く雨の日。
指導者さんは従姉妹の指導者さんとして忙しく、私はいつもの通り、指示されないまま動く。
適当に書類を作って、時間を見て会社を出る。
雨は小降りだった。
持っていこうか迷いつつ、傘を手にした。
いつもの地域を歩いて回る予定。
……だった。
何があったわけじゃない。
息をしたかっただけ。
建物から出たとたん、刃を取り出していた。
歩きながら、傷をつける。
腕につけた傷はいつもと違って、すぐに血の雫がじんわりと染み出した。
ああ、深かったのかな。
他人事のようにそう思った。
数本の筋をつけると刃を一旦仕舞った。
仕事をしようと思っていたはずなのに、足は公園のベンチで止まる。
――疲れたかな。
――疲れた。
手はやっぱりそれを握り締めていて……。
――いいよね? いつもの事だし。
誰に断るでもなく、『いつもの事』を始める。
感覚が消える。
雨の音も、周囲の景色も、手に持った刃も目に入ってない。
――痛いはずなのにな。
赤が増える。
皮膚を裂いて、ふつふつと丸く雫が現れる。
――痛いのかな?
全てが他人事。
痛みなんて感じない。
手を止めれば、現実がある。
仕事と言う現実。
傷跡と言う現実。
自分と言う現実。
――仕事、出来てないね? 頑張れてない。
――親が心配するよ? 何も解決しない。
――頑張れない私なんか、要らないんじゃないの?
怖いくらいの現実が広がる。
私は手を動かす。
時を刻む時計の音がやけに響く。
仕事……しなきゃ。
急かされるように、心だけがゆっくりと焦る。
重たい足を動かして、ベンチから離れた。
ポスティング用のチラシを片手に、歩き出す。
数件だけチラシを配るうちに、雨が少し強くなる。
止まないかな?
そう思いつつ、見上げた空は灰色だった。
手に刃を持って、数本歩きながら切る。
ますます激しくなる雨。
捲まくりあげた腕が濡れる。
切った傍から血が滲み、雨と混じった。
腕がじんじんと痺れる。
……まずいな。服が汚れる。
血が固まらないでいつもより広がる。
ふと見ると、袖口が少し変色していた。
……血が付いたかな?
とりあえず、また公園に向かった。
服についた血は気になるほどじゃなかった。
……どうしようか?
雨で濡れた服は体温を奪う。
少し肌寒さを感じた。
私は水溜りを弾く雨を見ながら、やっぱり刃を握り締めていた。
服が少し乾いた所で、歩き出す。
雨は止んでない。
濡れる服をどうしようかと思いつつ、傘を差す気はなかった。
差さなきゃという焦りはあった。
足はゆっくりと引きずるように、会社へと向かう。
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