文字数:約1093文字
【 涙雨2 】
何が出来たと言うのだろう。何が出来ると言うのだろう。
どうして、こうしなければならないの?
会社に着いた時には、またびしょ濡れだった。
このまま中に入るのはさすがに、気が引けた。
とりあえず、雨の当らない所でうずくまる。
寒かった。
震える体を抱きしめながら、どうしようかと思案する。
服が乾かない事には、ここから動けなかった。
「何をしてるんだ?」
不意に声が頭の上でする。
顔をあげると支部長だった。
……最悪!!
頭の中がパニックに陥る。
「何かあったのか?」
「あ、いえ」
どう答えていいのかも、判らなかった。
「とりあえず、会社に入ろう。そのままじゃ、風邪を引く」
「あ、はい」
私は入りたくなかったが、見つかってしまったのでしょうがない。
ふと見ると、研修生さんも支部長と一緒だったようだった。
会社に入った私はどうしていいのか、判らなかった。
荷物を自分の席に放り出し、座り込む。
所長さんが「何があったの?」と支部長と同じ事を聞く。
「何も……」
私は苦笑いしながら答えた。
心配そうな声が耳障りだった。
指導者さんが入ってきて、私を見て同じ事を言う。
「何があったの?」
「何も」
私は書類をロッカーに片付ける。
「ちょっと、来て」
指導者さんが私を皆から見えない影へと引っ張る。
そして、タオルを渡してくれた。
「とりあえず、拭いて。びしょ濡れじゃない」
私はそれを手にして髪を拭く。
「着替えは? 持って来てるわけないね。どうする?
今日はこの後、研修の方に行かなきゃいけないでしょ?」
頭の中でどうしようかと考えるが、このままでもいいかと思っていた。
「一旦家に帰って、着替える? それとも、服を買いに行く?」
私は無言だった。
それに困ったのか、とりあえず指導者さんは私を車に乗せた。
そして、従姉妹ちゃんを呼び出す。
やって来た従姉妹ちゃんが、同じ事を言う。
「何があった?」
同じ事を何度聞かれても、私の答えも同じ。
「別に何も……」
指導者さんは従姉妹ちゃんになら、私が何かを言うと期待していたようだった。
「研修で嫌な事でもあった? 誰かに何か言われた?」
「何もないよ」
何も言わない私に二人は困ったようだった。
濡れた服を着替える為に、私は指導者さんに家まで送ってもらった。
車の中でもしつこく同じ質問が続く。
「何があったの?」
「……」
私は終始無言だった。
何もなかった。
いつも通りだっただけ。
ワイパーが雨を弾いて動き回る。
「何か言ってくれないと」
――言えるわけがない。
――言ってしまいたい。
相反する考えが頭の中を過ぎる。
私は腕を握り締めた。
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