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✞ ×花見の跡 3× ✞

2022/11/02
文字数:約781文字
「イ…ヤダ!!」

 私は編集長さんの手を払いのけていた。
 混乱する私を編集長さんは宥めようともう一度、抱きしめる。
 私は泣く事しか出来なかった。

「ごめん。目を見てないと不安だったから」
 少し落ち着いた頃、編集長さんが言った言葉。

 私は怖かった。まっすぐに私を見つめる編集長さんの目が怖かった。
 とても、とても悪い事をしているのだ。
 後ろめたくて、辛くて。


「イカナイデ」
 編集長さんの言葉の意味を理解するのに、数秒。

 怖かった。
 何があっても、私を見据えるだろう瞳が…….放さないだろう手が。
 このまま手を振り払ってしまいたい衝動に駆られた。
 編集長さんはそれを許さない。
 言葉で態度で示すそれは、私に痛みを思い出させる。
 私が忘れている、傷付く痛み。
 繋ぎ止めたいのは編集長さんの方か、私の方だったのだろうか。
 どちらも手に力を入れてるせいか、繋がれた手が酷く痛い。
 永遠とも思える時間。

 諦めたのは私。

 一言でも私を責めてくれたなら、「どうして」と聞いたなら、
 私は躊躇わずにその手を放そうとするのに……
 でもそんな人だったなら、きっと私は編集長さんに逢いには来ていない。


 落ち着いてきて、ベンチに座って時計を見るとお昼の時間。
 …時間の早さに、少々驚きました。


 その後、バス乗り場で私は腕を見せる事にした。

 編集長さんは何も言わなかった。
 ただ、腕を優しく擦るだけ。
「こっちはもっと、酷いから」
 私はもう一方の腕に触れる。
「ああ、うん。そうだね」
 それだけ、言うとその腕を擦る。

 腕が痛かった。
 痛みを感じない腕が痛いと叫んでいた。

 バスが来た、私はそれに乗り込む。
 編集長さんの顔が不安げに見えた。
 席につくと、編集長さんが手を振ってるのが見えた。
 私は手を振り返す。
 バスが動くまで、私の姿を追っていたのだろうか。
 ……不安げだったのは私の方だったろうか。




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