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✞ ×花見の跡 2× ✞

2022/11/02
文字数:約1031文字
「お待たせ」

 耳元で編集長さんが囁いた。


 必死で止めようとしていた涙が落ちた。
 責められたわけじゃない。
 それが、私の中の罪悪を深くする。

 ……何をした?
 私は何をしようとした?
 私を責める声が私の頭の中で響く。
 止められたはずだ。
 編集長さんが来る事も判っていた事。
 見せ付けたかったのか?
 試したかったのか?


 零れ落ちる涙をそのままに、声を殺したまま私は目の前を見てた。


 目の前の噴水が、きらきらと水しぶきをあげる。
 犬の散歩で通りかかった人が、訝しげに私たちを見て通り過ぎた。


「ごめん。気付かなくて。ごめん」

 何度も繰り返される編集長さんの言葉。
 何もいえないままの私。
 謝るのは私の方だと思っていた。けど、謝る事は出来ない。
 判っていてやった私が、謝る事なんて出来ない。
 私が私を赦せるわけがない。


 暫くして編集長さんは前に回りこむと、私が傷つけようとした手を取る。
 私の腕が拒否の反応をする。
「傷の手当てをするだけだから」
 そう編集長さんは言ったけど、私は見せるわけにはいかないと思った。
「大丈夫だから」
 それでも、私は編集長さんの手から腕を引き抜こうと力を込める。

 見せるわけにはいかないでしょう。
 新しい傷だけじゃない。古い傷もまだ残ってる。
 残る傷じゃないけど、まだ治ってないその腕を見せるわけにはいかない。

 編集長さんは諦めたのか、腕を見ようとするような事は止めた。
 代わりにまた「ごめんね」が続く……


「編集長さんは悪くないです」
 何とか言えた言葉がこれだった。

「そうだね。本当は誰も悪くないのかもしれない」
 呟くようなコトバ。
 でも、編集長さんは編集長さん自身を責めるでしょう。
 私のせいで……。
 気付いてあげられなかったと、自分自身を責めるのでしょう。


「少し歩こうか?」
 編集長さんの言葉に私は頷き、荷物を持って歩き出す。
 暫く歩いて、また別のベンチへと荷物を降ろす。

 座らずに立ったまま、手を繋いだまま。
 編集長さんに顔を合わせられず、握った手を見つめていた。
 ゆらゆらと揺れる腕と共に、気持ちもほぐれていくような気がした。


「泣いてもいいよ?」
 私は笑っていた……少なくとも、笑おうとしていた。
 ゆっくりと沈黙の時間が過ぎてゆく。


「目、あわせて」
 心が引きつった。
 それまで私の手を握っていた編集長さんの手が私の頬を挟む。
「ちゃんと、目を見て」
 顔を覗き込むように向けられる。
 怖い……。
「大丈夫、何もしないから」
 見る事なんて出来ない。




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