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✞ 0話 祖先と洪水 ✞

2022/12/02
文字数:約432文字
 とおい とおい むかしの おはなし

 山を見上げ、海を見下ろす土地にご先祖様は住んでいた。
 島国のどこでもある風景。
 わずかな平地に水田を作り、作物を育て集落を築き上げていた。
 それらは洪水であっという間に壊される。
 そしてまた、一からのやり直し。

 何度それが続いたのかは知らない。
 ある時、地面が揺れた。
 川はいつも以上に水をたたえて、田畑を家々を飲み込んだ。
 田畑を元に戻すには難しく、住む家さえも消え去った。
 そして、人の命も。

 ご先祖様は、その場所を離れた。
 もっと安全でもっと安心できる土地。
 洪水の被害のない土地を求めて、移動した。


 その移動先が、私が今、暮らしている土地らしい。
 川からは遠く離れた土地。
 もともと、川の傍に住んでいた事は『地名』だけが示している。
 川の傍の地名と、ここの地名が同じなのだ。

 洪水の話はお寺の坊さん毎年一度、地域で話している事。
 そして、その証拠はあちこちにある。
 ただの伝承ではなくて、事実。

 忘れ去られていく事実。




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