文字数:約1033文字
父と母は結婚前に同棲 をしていた。
引っ越し費用を母が出し、箒 とチリトリ、一組の布団と食器ぐらいを買ったらしい。
洗濯機や冷蔵庫はない。もちろんテレビもクーラーもない。
洗濯はたらい で行い、手で絞っていたらしい。
冷蔵庫は、父がどこからか拾ってきたものを使うようになったらしい。
父は学生を終えて、職人の見習いになった。
給料は微々たるもので、二人での生活は大変だったそうだ。
母はたいてい「二人で居たかったからよ」と答えていたように思う。
それでも何度か「結婚には反対されていた」と言ったような事は聞いたことがあった。
強く反対したのは父の家だった。
「血が穢 れる」「家柄が合わない」など、結構な言われ方をしたらしい。
さらに親戚からは「我が家も落ちたものだ」と言われたらしい。本家なので口を出す親戚は多い。
今の時代、『家柄』なんてものは、あまり気にしないと思う。
母の時代も「家柄なんてものは古臭い」という感覚はあったらしいが、祖父母の世代はまだ『家柄』にこだわる世代だったようだ。
前にも書いたけれど、父の家は何代か続いた大きな家の本家。
対して、母の家はまだ2代目の新しい家。
というような事が『家柄が合わない』と言われた理由だと思う。
そうこうするうちに、二人で同棲 をはじめ、駆け落ちもどきまでして、警察まで巻き込んだ。
父の家族は仕方なく父と母の結婚を許したらしい。
父も母の兄 に押されては、決めないわけにもいかなかったのだろう。
そんなこんなで、父と母は結婚した。
父は次男坊だったので、家に入らなくてもよかった。
だが、長男坊である父の兄は当時、家を出ていた。
なので、結婚した父と母が父の家に入る事になった。
もちろんそこには、金銭的事情もある。
父の稼ぎでは、二人で生活が出来なかったのだ。
**父の兄と母の姉の話**
かなり後になってからだが、父の兄 が花嫁を連れて戻ってきた。
その花嫁にも親戚一同の非難が向けられた。
家柄よりも、水商売の女という職業の人間に対する非難だった。
しかし、反対したものの結果的には結婚して受け入れることになったらしい。
こちらは父と母が結婚する前の話。
母の姉も、ある男性と恋仲になった。
しかし、『家柄が合わない』と反対され、引き裂かれたらしい。
そして親の勧めるままにお見合いをして結婚したという。
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