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保育園では私は記憶がないだけで、
例外は、
とはいえ、ほっちゃんとは年が違う。もちろん、クラスも違う。
話したといっても、『姉妹仲良く話し合った』というようなものでもない。
「何しているの?」と私が聞いて、「別に」と妹が答えるくらいだ。
それ以上何かを話すことはないし、私も妹の答えが分かっていて聞く。
仲が悪いわけでもないけれど、何となく保育園では関わってはいけないものだと思っていた。
保育園には、同い年の
スズメちゃんとも保育園では話さなかった。
けれど、家ではスズメちゃんとも話していた。話していたといってもこれも、『妹たちに話すように』ではない。
もっとよそよそしい感じで、決して「親しい」と言えるようなものではなかった。
父が「ほら、お前らだけで遊べ」と言うから遊んでいたけれど、何とも言えない距離が私とすずめちゃんの間にはあった。
お互いに小さいころから知っている。
けれど、お互いにお互いの事をよく知らない。
人見知りなんて無縁なすずめちゃんと、人見知りの私が『親しく』なれる要素がなかった。
私と同じように
その子は私と違って、常にお友達と一緒に居た。
お友達がその子の話を聞いて、皆に伝えていた。
だから、正確には『お友達一人としか話さない子』なのかもしれない。
その子が居たから、私は自分を『
あの子と同じように私も
家族とは何の不自由もなく話せるから、自分は普通だと思っていた。
邪魔にならない場所、目立たない場所でじっとしていれば、話すことはない。
そうやって日々をやり過ごしていた。
ある時、保育園から老人ホームへ訪問に行った。
当時の私はそこがどんな場所で、なぜ来たのか分かっていなかった。
老人が多くいる場所に連れてこられて、いつもと違うことにとても困っていた。
「はーい。みなさん、おじいちゃんおばあちゃんに、これを渡してね」
と先生が言った。
恐らく、手紙かなにかだったのだろうと思う。
私は見知らぬおばあさんを目の前にして、固まった。
皆は「どうぞ」なんて言いながら、どんどん手渡している。
「どうぞ」が言えない。かと言って、無言で手紙を差し出していいのか分からない。
立ち尽くしている私に、目の前のお婆さんが言った。
「この子、何にも言わんぜ」
私にはその言葉が自分を責めているように聞こえた。
お婆さんは思った事を言っただけかもしれない。
けれども、そう言われたことで私はますます、自分がどうしたらいいのか分からなくなった。
沈黙が重くのしかかってきて、泣きたくなった。
そこに先生がやってきた。
「マルちゃん、ほら渡して」
そう言われて、手紙を差し出す。
お婆さんは仕方なさそうにそれを受け取った。
「
ぽつりとお婆さんがそう言った。
でも、私には何も言えなかった。
先生は私が手紙を渡したのをみて、他の子の様子を見に行った。
知らないおばあちゃんがとても怖くて、早くここから立ち去りたかった事を覚えている。
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