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お嬢様のいじめは大抵、『物』に向かうことが多かった。
物を欲しがって、取ったり壊したり。取ったり壊したりは筆箱や鉛筆消しゴムなどが多かった。
隠したりごみ箱に捨てられたりするのは、教科書やノートだ。
暴言は当たり前。「チビ」「グズ」「のろま」「shine」といった定番が多かった。
一番の被害が取り巻きだったけれども、取り巻きだけにいじめが向かっていたわけではない。
先生にまで向かっているのだから、児童は当たり前のようにいじめの対象になる。
理由は『お嬢様の気に入らない事をした』
それだけ。
もちろん私も例外ではなかった。
ある日、授業で折り紙を使う事になった。
普通の単色の折り紙を持っていくのが当たり前だと思ったが、ちょっと変わったカラフルな折り紙を、持っていきたくなった。
そうするとどうなるかが分かっていながら、どうなるかが見てみたくなった。
お嬢様はいつもの通り、「かわいい折り紙」を皆に見せびらかせていた。
次の授業で使うために、私もちょっと変わった折り紙を机に出す。
誰かがそれに気が付いて、「変わっているね」と言う。
お嬢様がそれに気が付く。
近づいてきて、「いいなぁ。欲しいな」のいつものセリフを吐 く。
私は黙る。黙って授業を待つ。
「何か言いなよ。欲しいって言ってんの」
お嬢様の言葉が荒くなる。
私は黙る。
お嬢様が力ずくで折り紙を取っていく。
そこに先生が入ってきて、「何事なの??」と聞いてきた。
お嬢様は自分の「かわいい折り紙」の事は話さずに、私の折り紙の事だけを話す。
先生は私に「普通の折り紙を持ってきてね」と注意だけして去っていった。
何枚かの折り紙はお嬢様の手の中。
……悲しいような気がしたけれども、思った通りの展開にがっかりしてもいた。
被害は折り紙数枚。授業に使う分の折り紙はある。
この時は困ることはなかった。
そしてまた、別の日。
その頃の給食時間は酷 いものだった。
給食への異物混入、デザートの奪い合い。
もしくは、嫌いなものを他人に渡す。相手が嫌いなものをわざと多めに入れる。
楽しい給食なんてものはどこにもなくて、『給食を食べるのが遅い子には、何をしてもいい』状態だった。
なるべく早く食べる。遅くなってしまったら、何をされるか分からない。
とはいえ、遅くなってしまう日もある。
その日も遅くなってしまった日だった。
「おっそーい。まだ、食べていないの?」
お嬢様が私に絡んできた。
とても嫌なパターンだなと思った。
休憩時間ならばトイレに逃げ込むこともできる。
けれど、今は給食時間。まだ食べている最中で逃げ場がない。
「ねぇ。牛乳は飲まないの?」
黙っている私にお嬢様が聞いた。
「後で……」
と、言ったような気がする。
「うそ。いつも、持ち帰っているでしょ。ずるーい」
保育園時代と変わらず、牛乳が嫌いなままだった私はいつも持ち帰っていた。
今日も持ち帰るつもりで、飲んでいなかった。
「ずるいよね。そんなの」
そう言って、お嬢様が私の牛乳を手にする。
マズイと思った。思ったけれども、どうすることも出来ない。
お嬢様が牛乳パックを開けて、私の頭の上からドバァとかけた。
ポタポタと頬を牛乳が伝っていく。
「くっさーい。汚い」
そう言って、お嬢様は離れて行った。
周囲はいつもの通り、引いている。
先生がいたのか、いなかったのか記憶にはない。
顔を洗って、拭ける部分だけふき取る。
けれども、臭いは消えない。
午後の授業は全く頭に入らなかった。牛乳臭さが気持ち悪くて吐きそうになりながら、座っていた。
家に帰ってやっと制服は脱いだ。
けれども、まだジャケットがいる季節だった。ブラウスの洗い替えはあっても、ジャケットの洗い替えはない。
家で必死にふき取ってみても、限界があった。
しばらく、牛乳臭いジャケットの制服を着る羽目になった。
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