文字数:約680文字
何度も書くが、私は牛乳が嫌いだ。
給食の牛乳は飲まずに持ち帰っていた。
それは学年が上がっても同じだった。
担任はそれについて特に何も言わなかった。
やがて、担任が産休に入って、代理の先生が来た。
この先生は、私が牛乳を飲めない事を問題にした。
そして、「飲め」と強制した。
最初は一口。
その次は三分の一……と言った感じで量を増やす。
飲めない分は『残りは捨ててきていいよ』と先生は言った。
私は耳を疑った。
それまで私は「食べ物を捨てては、いけない」と習ってきた。
牛乳も『捨てるくらいなら、持ち帰ってきなさい』と、母が言ったから持ち帰ってきた。
それを、先生は簡単に「捨てろ」と言う。
私は牛乳を捨てた。
白い液体が排水溝に吸い込まれていくのを見ていた。
牛乳を口にするたび、頭からかぶった記憶がよみがえる。
牛乳を捨てる度、食べ物を捨てる罪悪感でいっぱいになる。
午後の授業は口の中が気持ち悪くて、授業に集中できない。
最終的には『全ての飲め』と言われて、飲んだ。
それを見て、代理の先生は満足げに「飲めるじゃない」と言った。
早くこの先生が居なくなればいいのに、と思った。
担任の産休が開けて、代理の先生が居なくなると、私は牛乳を持ち帰った。
牛乳を頭からかぶる記憶はよみがえらなくなった。
罪悪感もなくなった。
授業も集中出来る様になった。
担任は私が牛乳を持ち帰る事には、何も言わなかった。
代理の先生は「食べ物を捨てる罪悪感」を私に教えてくれた。
私は今も牛乳を頭からかぶった記憶と、牛乳を捨てる記憶と、飲んだときの気持ち悪さが忘れられない。
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