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✞ 6話 男の子の疑問 ✞

2023/02/15
文字数:約1139文字
 こたみちゃんは誰とでも仲良くなる。それは、男の子でも例外ではない。

 その男の子は、学級委員の真面目な子だった。
 けれども、こたみちゃんとはふざけ合う。仕掛けるのは大抵こたみちゃん。
 私はそれを黙っていつも見ていた。

「あいつって、ほんとジャガイモに似ているよね?」

 こたみちゃんは、ふざけ合った後で私に聞いてくる。
 確かに顔が少し丸いが、それがジャガイモに似ているかはよく分からない。
 けど、一応「そう?そうかな?」と、適当に相槌あいづちを打っておく。

 ある日……たぶん、何かの係の仕事だったと思う。
 こたみちゃんと一緒の係だったのか、ただ手伝っていただけだったのかは忘れた。
 けれども、こたみちゃんと一緒に何かを作っていた。

 そこでハサミが必要になったけど、ハサミがなかった。
 見回すと男の子が使っていた。
 こたみちゃんは、そっちをちらっと見て「借りてきて」と私に言った。
「え?でも……」
 たぶん、私は『無理だ』と言おうとした気がする。

「貸してって言うだけじゃん。私はこっちをやるから借りてきてよ」

 こたみちゃんは何でもない事のように言う。
 私にとっては、それが『難しい』
 何度か、そのやり取りをした後に仕方なく、私は男の子の方に向かって行った。

「あ……あの。それ……貸して」

 男の子は私の方をポカンと見上げた。
 そして一言

しゃべれたんだ」

 私はショックと同時に、正しいと思った。
 こたみちゃんが、私が普通にしゃべれると思って接しているので、私も『周囲は私をそう見ている』と思っていた。
 けれども、そうではなかったという事が衝撃的だった。
 私が感じている『しゃべれない』は、外から見てもやはり『しゃべらない』だったという事に、始めて気がついた。

 男の子は使い終わったハサミを私に渡してくれた。
 それを持って、私は自分の作業に戻る。
 しばらくして、作業が終わった男の子がこちらに来た。

「カタチさんって、しゃべれたんだね」

 こたみちゃんにそう話しかけていた。

「何言ってんの?当たり前じゃん」
「いや。だって、しゃべっているの聞いたことがなかったし……」
「授業中だって普通にしゃべってるじゃん」

「そうだけど……。それ以外に声なんて聞いたことがない」
「失礼なヤツ。しゃべれるよねー?」
 と、こたみちゃんは私を見る。

「え。あ。うん」

 私は別に男の子を失礼だとは思わなかった。
 とても正しい認識を持っているだけだと思った。
 逆にこたみちゃんは、私に対しての認識がずれている。
 周りが一番分かっている私の特徴を、一番傍に居るこたみちゃんだけが理解できずにいた。
 そしてそれは、この先も続いた。

 こたみちゃんが私を理解できないように、私もこたみちゃんを理解していなかった。
 この時の違和感は、こたみちゃんとの関係が終わるまで続いた。






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