文字数:約1139文字
こたみちゃんは誰とでも仲良くなる。それは、男の子でも例外ではない。
その男の子は、学級委員の真面目な子だった。
けれども、こたみちゃんとはふざけ合う。仕掛けるのは大抵こたみちゃん。
私はそれを黙っていつも見ていた。
「あいつって、ほんとジャガイモに似ているよね?」
こたみちゃんは、ふざけ合った後で私に聞いてくる。
確かに顔が少し丸いが、それがジャガイモに似ているかはよく分からない。
けど、一応「そう?そうかな?」と、適当に相槌 を打っておく。
ある日……たぶん、何かの係の仕事だったと思う。
こたみちゃんと一緒の係だったのか、ただ手伝っていただけだったのかは忘れた。
けれども、こたみちゃんと一緒に何かを作っていた。
そこでハサミが必要になったけど、ハサミがなかった。
見回すと男の子が使っていた。
こたみちゃんは、そっちをちらっと見て「借りてきて」と私に言った。
「え?でも……」
たぶん、私は『無理だ』と言おうとした気がする。
「貸してって言うだけじゃん。私はこっちをやるから借りてきてよ」
こたみちゃんは何でもない事のように言う。
私にとっては、それが『難しい』
何度か、そのやり取りをした後に仕方なく、私は男の子の方に向かって行った。
「あ……あの。それ……貸して」
男の子は私の方をポカンと見上げた。
そして一言
「喋 れたんだ」
私はショックと同時に、正しいと思った。
こたみちゃんが、私が普通に喋 れると思って接しているので、私も『周囲は私をそう見ている』と思っていた。
けれども、そうではなかったという事が衝撃的だった。
私が感じている『喋 れない』は、外から見てもやはり『喋 らない』だったという事に、始めて気がついた。
男の子は使い終わったハサミを私に渡してくれた。
それを持って、私は自分の作業に戻る。
しばらくして、作業が終わった男の子がこちらに来た。
「カタチさんって、喋 れたんだね」
こたみちゃんにそう話しかけていた。
「何言ってんの?当たり前じゃん」
「いや。だって、喋 っているの聞いたことがなかったし……」
「授業中だって普通に喋 ってるじゃん」
「そうだけど……。それ以外に声なんて聞いたことがない」
「失礼なヤツ。喋 れるよねー?」
と、こたみちゃんは私を見る。
「え。あ。うん」
私は別に男の子を失礼だとは思わなかった。
とても正しい認識を持っているだけだと思った。
逆にこたみちゃんは、私に対しての認識がずれている。
周りが一番分かっている私の特徴を、一番傍に居るこたみちゃんだけが理解できずにいた。
そしてそれは、この先も続いた。
こたみちゃんが私を理解できないように、私もこたみちゃんを理解していなかった。
この時の違和感は、こたみちゃんとの関係が終わるまで続いた。
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