文字数:約1257文字
相談室は保健室の隣にあった。
2年の途中から卒業まで、放課後は相談室に行った。
相談室は二つに分かれていて、片方は『相談する場所』片方は『先生がいる場所』だった。
最初は相談者がいても、「静かにしているなら、いてもいいよ」と言ってもらえていた。
相談者は相談する場所、私たちは先生がいる場所で雑談をする。
けど、そのうち「今日は相談者がいるからダメ」と言われるようになった。
静かにしているつもりでも気配を消すことは出来ないし、相談者がいる事を知らないと「来たよー」と言って部屋に入ってくる子もいる。
相談者が気にして相談にならなくなったのだろう。相談者がいる日は鍵がかけられて、入れなくなった。
最初はこたみちゃんとだけ話していた私も、しばらくすると、他の子たちと話すようになり先生とも話すようになった。
相談室の先生は、私が推薦入試を受けた日、面接をした先生だった。
私がその先生を覚えていたのは、三つ編みをしていたからだ。長い髪を一つに編む先生は見た事がある。けど、お下げ髪を三つ編みにしている先生は初めて見た。
面接の時だけその髪形なのかなと思ったけれど、入学してすぐに『いつもその髪形』な事が分かった。
先生の方でも私を覚えていたらしく、「あの時の子でしょ」と話しかけられた。
やがて、近所の男の子 もやってくるようになった。
その男の子との接点は小学生以来だったので、こたみちゃんを通して普通に話せるようになった。
ただ、このお喋 りは相談室内だけのもので、廊下で出会っても私はこたみちゃん以外とはうまく話せなかった。
相談室の調子で話しかけてきた後輩に、私は返事が出来なかった。
廊下に出ている時に、こたみちゃんが私の方へやってきた。
「後輩君に渡したいものがあるケド、忙しくて時間がないの。渡してきて」と、私に頼んできた。
私は「無理」と返したが、こたみちゃんには、なぜ無理なのかが分からない。
「渡してくれるだけで良いから」
「いや……無理だって」
そのやり取りを何度か続けていると、たまたま後輩君が通りかかった。
「なにやっているんですか?」
と声をかけてくれたので、こたみちゃんはその場で後輩君に渡していた。
受験期間は相談室に来ない人が増えた。
受験が始まって、進学が決まった人は相談室に戻って、合格の報告をする。
それをお互いに喜び合った。
そして、卒業後に『相談室のみんな』で相談室に集まる事になった。
後輩君もやってきて、手作りカップケーキを持ってきてくれた。
私たちはそれを、美味しくいただきながら雑談にふけった。
薬学部に行く人、幼稚園教諭を目指す人、皆が未来の話をしている。
先生もその輪に入って、一人一人にコメントをしている。
私に対しては、「最後まで心を開いてくれなかったね」だった。
相談室通いは約1年半ほどで、雑談程度は話せる。それで十分ではないのだろうか。
私は首を傾 げてしまった。皆はそんなに『心を開いて話している』のだろうか。
何を話せば、心を開いたことになったのだろうか。
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