文字数:約976文字
スズメちゃんは私と同じ高校三年だった。トンボ君は中学三年。アゲハちゃんは成人したばかり。
アゲハちゃんはすでに結婚していたという事もあって、トンボ君が喪主を務めた。
父と伯父 さんが深刻そうに部屋に入って行くのを何度も見ていた。
けれども、亡くなるなんて予想もしていなかった。
父は従兄弟たちのために奔走した。遺産分与にその他手続き。他人からは「遺産泥棒」とまで言われたのだとか。
理由は一つ。
家長であるトンボ君に土地家屋を残すために、お金をかき集めて、アゲハちゃんとスズメちゃんに渡したからだ。
家長制度が色濃く残るこの土地で、男子というだけで「土地家屋&墓の管理」はついて来る。
分家と違い、本家ならば、なおさらだ。
だからこそ、トンボ君が喪主だったのだ。その為 に父は動いたが、どう頑張っても土地家屋に値するお金があったとは思えない。
おそらくアゲハちゃんとスズメちゃんはある程度の金額で妥協したのだろうと思う。
それが、遺産泥棒という言葉になったのだと思う。
高校卒業後に結婚が決まっていたスズメちゃんはともかく、トンボ君にはまだ保護者がいる。
父はアゲハちゃんに後見人を頼んだらしいが、断られたらしい。
まだ成人したばかり……小さな我が子もいて弟の面倒までは見られないと思ったのだと思う。
そんなこんなで、父はトンボ君の後見人になった。
もともと、私たち家族よりも伯父 家族を優先させてきた父なので、特に何も思わなかった。
トンボ君は成人式の時、うちに挨拶 に来た。
成人できたのは父のおかげ……というわけだ。
よその子に慕われる父に複雑な気分しかなかった。
トンボ君の結婚の時も相手の親との顔合わせに、私は行った。
なぜ、私なのかと言えば、母が嫌がったからだ……いや。もう父だけでいいじゃないか。
トンボ君の離婚した母親はまだ生きている。そっちの母親でもいいじゃないかと思った。
が、離婚した母親とうちの父の関係は最悪らしく、呼ぶわけがなかった。
結婚式に呼ばれて……と言うのならばわかるが、私は『トンボ君の親代わり』として引っ張り出された。
相手の家からしても、なぜ?と不思議だったのではないかと思う。
私自身も不思議だった。なぜ、従兄弟の結婚相手の親との顔合わせに出なければいけないのだろか。
<<前 目次 次>>