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昼間に会えなかったので、こたみちゃんは、「ちょっと遅くなってもいいなら家に行くけど?」と言ってきた。
それで良いよと返した。
こたみちゃんが私の家に来たのは、小学生の時に一度きりだった。その一度の記憶を元に、真っ暗な中やってきた。
……いいよと言わなければよかったと、思った。
せめて昼間ならば、もう少し分かりやすかっただろう。
こたみちゃんも「迷うかと思った」と言っていた。
私が住んでいるところは田舎なので、田んぼの中の家しかない。どの家も似たような『田んぼの中の一軒家』だった。
道に迷うというよりも、家を間違える確率の方が高い。
こたみちゃんとの話は、あまり楽しいものには、ならなかった。
それどころか、私はやっぱり合わないなと確信してしまった。
こたみちゃんの話は、『リストカットって教科書に書いてあって、こうなんでしょ』と言う事だった。
私の話を聞いてくれるわけではなくて、彼女は、教科書の話と私の話が合っているかの確認をした。
暗くなってからやって来た……と言う事だけなら、友人想いの良い人っぽいが、話の中身は『野次馬根性丸出しの他人』だった。
「仕事をやめてどうするの?」
こたみちゃんが聞いた。
「ボランティアでもしようかな」
「そんなの儲 からないじゃん」と即答された。
こたみちゃんも近況では、仕事がつらくてやめたと言っていた。
ただ、すぐに友人のツテで仕事を見つけたらしいけれども。
いや。逆かもしれない。仕事があったから、元の仕事をやめただけなのかもしれない。
ささくれ立ってしまった神経では、こたみちゃんの言葉の一つ一つに、痛みしか感じない。
「もう、帰るね」と言ってくれた時にはホッとしてしまった。
こたみちゃんとは、しばらくたった頃に「いつか旅行をしたいね」とメールをしてみた。
返ってきたのは「そんな時間あるわけないじゃん」だった。
私は別に『今すぐ』とは、どこにも書いていない。
おそらくこたみちゃんも仕事が忙しかったのだろうと思いつつ、この関係はもう無理だなと思った。
私は、こたみちゃんにお手紙を書いて、縁を切った。
お手紙をポストに入れた日の夜。
夢を見た。
親指にキノコが生えている夢だった。
私はそれが邪魔で、一生懸命抜こうとするが、全く抜けない。
引っ張り、叩 いて、刃物で切ろうとした。
なかなか、抜けなかったそれは、唐突にスポッと抜けた。
キノコが生えていた場所は皮膚がめくれて、血が滲 んでいた。
目が覚めて、『あのキノコは、こたみちゃんだ』と思った。
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