文字数:約549文字
私は仕事をやめた。
辞職理由は『病気』だった。
病院には一切行っていない。書類上の理由が『病気』なことに笑った。
会社に行っていた頃、たくさん折った紙飛行機は部屋を埋め尽くした。
紙飛行機を集めた。
会社から持って来た個人情報満載の書類も集めた。
畑で落ち葉や木を集めて、火をつける。
そこに紙を入れていった。一つ一つ、ちゃんと燃え尽くすように場所を移動させる。
田舎なので、たき火はあちこちでやっている。
日が暮れて、暗くなったので、火を消して、家に入った。
腕の傷は足や肩にも広がった。
お腹も切れるかなと思ったけれども、薄い皮膚は敏感で痛みが強くてやめた。
仕事をやめた私の周りは、再び静かになった。
仕事に行かなくていいし、人に会わなくてもいい。
お喋 りをしなくていいし、起きなくてもいい。
毎日、やる事は切る事だけ。
理由は『働いていないから』に変わった。
切っていると許されている気がする。
生きていて、いい気がした。
同時に毎日『明日が来なければいい』という思いは消えなかった。
仕事はもうない。
けれども、明日はいらない。
眠りにつく時は「このまま二度と目覚めません様に」と願った。
仕事をやめても、私の傷は減らなかった。
紙飛行機を折らなくなった事だけが、唯一変わった事だった。
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