文字数:約742文字
その日の夜は会長様とホテルに泊まった。
理由は私にもよく分かっていない。
一人でホテルに泊まれない子供と思われていたのだろうか?
ダブルベッドに二人で寝る。
眠ろうと思っても、なかなか寝付けない。
ベッドの中でつまらないお喋 りを二人で続けていた。
部屋の電気はすでに消してある。
外は明るいネオンが瞬いている。
「ああ。もう」
会長様が突然苛立ったような声を上げる。
私は何かをしただろうかと考える。
思いつくものがない。
「いいの?」
何が?と返しそうになるが、私が分かっていないだけだろうか?と考える。
「……」
「……」
沈黙が流れる。
「分かっていないんだね」
話が見えない。全く、一欠けらも見えない。
会長様はベッドから出て、洗面所へと入って行った。
何なんだろうか?全く話が分からない。
先ほどまで話していた雑談から繋 がっているのだろうか?
いや。そんな感じではない。
私はベッドの縁に座り込む。
薄いカーテンからは外のネオンが入ってくる。
ああ。綺麗 だなと思った。
会長様が洗面所から出てくる。
ベッドから出ている私を見て、「寒くないの?」と聞いてくる。
私はもう少しだけ外を見ていたかったが、会長様がベッドに誘うのでベッドに入った。
再び、ベッドの中で向かい合う。
「聞いてもいい?」
「うん」
「私の事が好き?」
会長様が私に聞く。
全く予想もしていなかった質問だった。
なぜ?なぜそれを聞くの?
好きだと言ってしまえばいい。
女性同士ならおふざけで終わる。
おふざけで……終わらせたくはない。
好きだ。
好きだから、好きだなんて言えない。
言ってしまえば、終わってしまう。
終わらせたくはない。
私は沈黙した。
言葉が出てこなかった。
たった一言
『好き』
その一言が重すぎる。
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