編集

✞ 13話 夜のお話 ✞

2023/06/24
文字数:約793文字
 次の東京オフ会。
 オフ会中は和やかに過ごして、夜は会長様と泊まった。

 夜になって、会長様に問い詰められた。
「忘れって何?私がどれだけ傷ついたか分かっているの?」

 昼の穏やかな時間はどこへやら、数カ月前の怒りがぶつけられる。

「……そんな前の事」
 思わず言ってしまった言葉に、会長様の目の色が変わる。
 しまったと思っているうちに、会長様の手が伸びてくる。

 何をするつもりなのか分からなかったが、うつぶせで会長様の膝の上に押し付けられた。
「ちょ……や。ヤダ」
 会長様の意図を計りかねていると、お尻に痛みが走る。

 え?何これ?何の罰ゲーム?
 服の上から痛みとてのひらの感触が伝わる。お尻をたたくなんてされたことがない。

 それだけ、彼女が怒っているのだという理解した。


「ホント、Mだね」


 会長様の気が済んだところで、手が止まり言葉が放たれる。
 否定する気はないが、わざわざ肯定するのもどうかと思って無言でいる。
 身体を引き離して、会長様の上から退く。

「で、分かった?」
「ん?何が?」
「私がそれだけ怒っていたって事」
「あ。うん。分かった」

 私は無邪気に分かっていないふりをして、分かったという。

「本当に分かっているの?」
「うん」

 無邪気に子供っぽくいつものように、私は答える。

「まぁ。分かっているんだろうから、いいや」
 会長様は私の頭をぜながらそう言った。



 そして、続ける。

「でも、私は君をアイシテナイヨ。それで良いの?」

 知っている。
 そう答えそうになる言葉を飲み込む。

「イイよ」
 私は無邪気にそう言う。
「本当に?」
「うん」

 会長様は何度も問う。
「本当にいいの?」

「イイよ。私が会長様を好きだから……」

「初恋は報われないんだよ……それでいいの?」

 いつか会長様は再び私を責める予感を頭の片隅に残しつつ、私はただ「イイよ」と答えた。
 忘れる事が出来ないのなら、戻る事が出来ないのなら、先に進むしかない。




<<前  目次  次>>