文字数:約536文字
「私は、どっちでもいけるから」
会長様はそう言っていた。
つまり、同性も異性も愛する事が出来る。
けれど、長く関わるとそれもまた違うと感じた。
会長様は異性を愛する事が正しいと思っているようだった。
「同性愛者だって、本当に愛する異性に会っていないだけかもしれないでしょ」
それを聞きながら、それを言うなら逆もまた然 りだなと思った。
「異性愛者だって、本当に愛する同性に会っていないだけかもしれない」
会長様と私の間には、『正しくない関係』という答えが転がっている。
秘密を抱えたまま、片手を繋 いで片手を隠している。
「いつか、いい人を見つけな」
と彼女は言う。
私は黙ったまま答えない。
この関係が錯覚なのか、錯覚ならばいつ覚めるのか、分からなかったからだ。
時々考える。
私が男ならば、何か変わったのか。
けど、私が男だったら会長様には近づけない。この関係は私が女だからこそ、どうにかなっている。
考えれば考えるほど、この関係は正しくないと思ってしまう。
正しさなんてどこにもないと思いながら、正しさを求めてしまう。
彼女への愛が『本当の愛』かどうか、私は今も分からない。
同性愛は愛した人の性別で決まるのか、性別が同性だから愛するのか。
私はどちらだったのか、分からない。
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