文字数:約1263文字
歌姫様と出会ったのは、とあるSNSだった。
毎日の愚痴日記にコメントをくれたのが、歌姫様だった。
落ち込みや恋愛に共感をしてくれて、私は彼女が気になった。
東京に行った時に彼女に会った。
一人で話が出来ないので、会長様を連れて二人の会話を楽しむ事にした。
会長様の事も日記で愚痴っていたので、歌姫様は知っていた。
会長様には歌姫様の事を伝えていなかったので、会う事が決まってから簡単に話をした。
歌姫に会ってみると、思ったよりも背が小さかった。歳は私と同い年。
長いサラサラの髪が、印象的だった。
会ってすぐに、ギターの弾き語りを一曲、聞かせてもらった。
私は音楽が全く分からないけど、彼女の曲は好きだった。
その後は食事をしながら、話をした。会長様とは気があったらしく、二人で延々と話し込んでいた。
二人の話は聞いていて楽しかった。
歌姫は親に歌う事を快く思われていないと言っていた。
やがて、親から出て行けと言われて、家を出たという話だった。
私はその話を、全てが終わってから聞かされたが、会長様は私よりも前に聞かされたらしい。
歌姫様のライブに行って、話に夢中になって夜行バスに乗り遅れた事もあった。
その時は、歌姫様の引っ越したばかりの部屋に泊まった。
「うちはね。勉強が出来ていたら、他は何をしてもいいって感じだった」
そんな話を歌姫様から聞いた。
確か、医学部に入学した話がブログに書かれていたのを思い出した。
「でも、音楽はダメって言われちゃって、大喧嘩 」
彼女は笑って言ったけど、かなりショックだったのは目に見えて明らかだった。
ある日、歌姫様から真夜中にメールが来た。
私はそのメールを昼になってから読んだ。
『会長さんを怒らせたみたいで、
最後に会おうって言われた。どうしたらいいのか分からない』
と言うようなものだった。
会長様を怒らせるとは何をしたのだろうか?と考えてしまった。
めったな事では怒る人ではない。会長様が怒るなら、それなりの理由があるのだろう。
慌てて歌姫の方へメールを送る。
『会長様は厳しいけど、酷 い人じゃないよ。
慌てなくても、そんなに怒っていないかもしれない』
とりあえず、会長様に事情を聞く事にした。
『ちょっと、厳しい意見を言ってしまって……
私がファンなのかどうか分からないって言われた。
ファンじゃなかったら、意見を聞かないのかって思って』
歌姫は私と同じで、心が強くはない。
まして親から家を追い出された後で、厳しい意見は辛 いと思う。
けど、会長様はプロになるならという視点で言ったのだろう。
ため息が出た。
歌姫が遊んでいるとは思わない。彼女は彼女で必死で頑張っている。
けど、会長様の目から見たら、それは全然ダメなのだろう。
私が言うまでもなく、会長様の方から『言いすぎた。謝っておく』と返事が来た。
この件は、会長様が謝って落ちついたらしい。
ただ、私は全く別の事を考えていた。
私はきっと『最後に会おう』なんて、言ってもらえない。
そう言ってもらえる歌姫が羨ましいと思った。
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