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✞ 猫の恋の頃3 ✞

2022/10/26
文字数:約817文字

   【 抑制 】

 制御しきれないほどの、感情。
 押し留めて、押し殺して。
 幾重にもかける、抑制。


 インターネットが繋がらなくなった。
 その場所は私にとって唯一の外だった。
 息抜きの出来る場所だった。
 ゴールデンウィーク中も、ネットには繋げなかった。
 でも、この大型連休がなければ、私はもっと早くやっていたと思う。


 休みが終わったある日。
 指導者さんに注意を受けた。
 履いてきたサンダルは踵で止まるものが良いという事。
 その後で入力作業をした。
 パソコンが立ち上がる間、小さな紙にイラストを書いていた。

「何してるの?」
 後ろから掛けられた声に、私はとっさに紙を隠す。
「まずいところを見られたね」
 指導者さんが私の手元を、覗き込みながら笑う。
 私はべつにまずい事をしてるなんて思ってなかった。
「私だったから良かったけど、支部長に見られるとまずいよ」
 そう言って、隣でパソコンを立ち上げる。
 私は何も言わなかった。

 そして指導者さんは「学生気分が抜けないのね」と呟いた。


 ……それだけで済ませるんだ?
 そう思うと、悲しかった。
 私がイラストを描くのは私の心を保つ為。
 少しでも負担を消したかっただけなのに。

 何を言っても、言い訳にされるような気がして何も言わなかった。


 帰りは指導者さんと一緒だった。
「そう言えば、雑誌に投稿とかしてるって聞いたけど?」
「あ、はい」
 私はカバンの中に持っていた雑誌「~趣味の会報~」を取り出す。
「どうして持ってるの?」
 そう言いながら、受け取ってぺらぺらとページをめくった。
 適当に見て返してくる。

「会社に持ってくるのは、どうかと思うよ。
 イラストも家で十分描けるんだし、会社でする事じゃないでしょ」
 それは正論だと思う。
 私がそれを判ってないと思ってるの?
 息が出来なかった。


 剥ぎ取られた心のクッション。
 必死に保とうとする心が崩れていく。
 空気があるのに、息が出来ない。

 私はどうしたら、良かったの?




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