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✞ 雨の刺す頃8 ✞

2022/11/02
文字数:約1025文字

   【 傷痕3 】

 生きる事が見えない。
 生きている感覚が見つからない。
 私は、生きてるの?


 店を出て、指導者さんと従姉妹ちゃんは支社の方へ行った。
 私はそれに着いて行く事は出来ず、駅前を適当に見ていた。
 本屋に座るスペースがあった。
 疲れた私は、そこに座る。
 ……切りたいなぁ。
 手にしていたのは刃。
 すっと引いた線は赤く染まる。
 ――ほら、安心。

 傍で見知らぬ子供が無邪気に笑っていた。

 帰りは従姉妹ちゃんと一緒に帰った。
「あのさ。あの手紙、嬉しかったって指導者さん」
「ふーん」

 私は気の無い返事を返す。
「だいたいあんたもさ、考えすぎだよ」
「そう? インターネットである人に見せる事話したら、反対された。私が傷つくって」
「そりゃ、これ、悪い事しか書いてないじゃん。

 誰だって、こっちが悪者みたいだし。大体、ネットの中だけの関係でしょ」
『だから、何も判るわけない』と言われたような気がした。
「そうかもしれないけど」
 だったら、あなた達は判ってくれるって言うの?
 ……何もわかってないくせに。


 夜になって、思い返した。
 小説……書いて見ようかな。
 真っ白な画面を見て、私は気づいた。
 書けない……
 いつから、書けなくなった?何で、何も出てこない?
 ……書けないから、苦しい。
 書けるくらいなら、切ったりしてない。
 昼間の二人の意見は、私にとって何の役にも立たない。

 私は編集長さんに泣きついた。
 編集長さんは私に心地よい言葉をくれる。
 編集長さん:『ノアちゃんが信じられなくても、ノアちゃんが必要だよ』
 ノア:『信じられない』
 編集長さん:『それでも、必要だよ』
 必要とされてる事が信じられなかった。
 自分が要らないと思う自分を、誰かが必要だと思ってくれるなんて思ってなかった。


 次の日も、休んだ。
 そして、月曜日。
 父が聞いてきた。
「会社、辞めるのか?」
 私にはまだ、迷いがあった。

「辞めるなら。伝えるから」
 何も言わない私に父が言った。

「辞める」
 私はそう言った。

 そして、父が指導者さんに電話をしてくれた。
 父の仕事を手伝いながら見た青い空が、私には青く見えなかった。
「ラーメンでも、食べに行くか」
 昼になって父が言い出した。
 ラーメン屋で向かいに座った父が聞く。
「仕事、そんなに辛かったか?」
「え? そーでもないよ?」
 私は目の前のグラスを握りながら、普通に答える。
 父は黙り込んで目頭を押さえた。
 親を泣かせて、泣きたいのは私の方だった。