文字数:約1197文字
【 孤独 】
いつだって、叫んでいた。その声は小さくて、小さくて。
誰にも届かなかったけど。
1週間ぐらい経った日の事。
夕食の後、携帯を見ると着信があった。
所長さんからだった。
いつもなら放っておく着信を、かけ直そうか迷った。
時間を見ると30分以内に、かかってきたものだった。
迷いつつ、電話をする。
「辞めるって聞いたから、どうしてるかと思って」
用件はただ、それだけだった。
声を聞いてるうちに、怖くなる。
「どこまで、聞いたんですか?」
そんな事を聞く必要が無いのは判ってる。
「別に、従姉妹ちゃんから辞めるって聞いただけ」
警鐘がなっているのに、止まらない。
言う必要は無いのに……。
「うで……切らなきゃ……会社に……行けなく……」
泣き声だった。上手く伝わらなかっただろう。
止めて欲しい。
――誰か……誰か……誰か!!!
がむしゃらに手を伸ばした。
掴んでくれるだろうと思った。
「ごめんね。じゃ、思い出したくなかったでしょ。切るね」
違う、違う、そうじゃなくて。
「ち……がっ。会社辞めたら人が怖くなる」
本当はもっと別。
ただ、ただ、止めて欲しい。
「じゃ、会社に来る?車に乗って一緒に回る?」
「は……い」
会社が平気なわけじゃない。
でも、それよりも、止めて欲しかっただけ。
「切っちゃだめだよ」
その言葉が欲しかっただけ。
所長さんはその言葉をくれた。
でも、結局は2度と会社に行く事は無かった。
次の日。
朝、従姉妹ちゃんの家で父の仕事を手伝っていた。
従姉妹ちゃんが子供たちを連れて出てくる。
そして、私に気がついて話し掛けてくる。
「おはよう」
「……おはよ」
会いたくなかった。
「指導者さんが何でノアが所長さんに電話したのか不思議がってた」
「何でって?」
「何で所長さんが知ってるのかって。ノアが自分から話したのかって。何か苛立ってたな」
何? それは? 話したじゃない。必死で話したのに。
何も受け取らなかったくせに。
「あれは所長さんから電話があって、履歴が残ってたからかけ直しただけ」
「そう。やっぱり、ノアから電話するわけないよね。じゃ、そう、言っておく」
そう言って、従姉妹ちゃんは出かけていった。
指導者さんから父へ電話がかかって来た。
私の意思確認のため。何となく、話は想像できた。
「ああ、査定もあるんだっけ」
父のその言葉が私に引っかかった。
今の私は成績をとるどころか、自分を保つ余裕さえない。
お荷物にしかならない。
動けなかった自分。
また、同じように迷惑をかける。
夜、編集長さんとまたチャットをした。
ノア:『どうしよう』
編集長さん:『だから、仕事は辞めた方が良いと思う。
だって、向こうだって辛いと思うよ。仕事は仕事なんだしさ』
ノア:『でも……』
仕事を続けて、何になるのか。私には判らない。
それでも、その場所にいなきゃいけない気がしていた。
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