文字数:約1204文字
【 退職 】
心は変わる。不安定さに慣れてしまう。
これが普通だと思いたくないのに。
指導者さんからメールが来た。
『支部長を交えて話をしよう』
私の返事は苛立ちに満ちていた。
『今まで話して、何も判ってくれなかったじゃない』
自分の苛立ったメールを送信した後で後悔した。
けど、後の祭りだった。
『じゃあ、あなたは私の事がわかるの?』
……それは、堂々巡りの返事になるよ。
馬鹿馬鹿しい事をしていると思った。
判らない。判らない。で、お互いに答えが見つからない。
私は謝罪のメールを返して、諦めた。
私は友達ちゃんに『会いたい』とメールを出していた。
『明日だったら会えるよ?』
友達ちゃんのその返事に、私は『会う』と返事をした。
どこかで、会えるわけがないと思いながら。
そして、翌日。
「あのさ。友達に会いたいんだけど」
仕事に向かう父に言ってみた。
返事はやっぱり、思った通りのものだった。
「仕事があるだろ。断りなさい」
「でも、会う約束したし」
「仕事があるのに、会えるわけないだろ」
……会いたかったのに。
声はいつだって押しつぶされる。
私は『会えない』とメールした。
母が心配そうに私と父のやりとりを見ていたが、何も言わなかった。
友達ちゃんに会いたいけど時間が合わず、メールで一通り話した。
『辞めるための話し合いがあるんだけど……』
『辞めるんでしょ?伝わるよ、大丈夫』
……。そう取られるのが当たり前か。
だから、会いたかったんだけどね。
支部長が家に来た。
父も話し合いに混ざって「どうしたい?」と聞かれた。
「……辞めたい」
それだけ。
私が言った言葉はそれだけ。
その時に私の頭に響いていたのは、友達ちゃんの『辞めるんでしょ?』だった。
最後に指導者さんは「悪い事だけ覚えてないでね」と言った。
――良い事があった?
どこに? どこに……。
思い出が何も無かった。
話し合いが終わった後、私は切った。
話し合いの前にも切っていたのに。
止まらない。
止める必要は無い。
止めるものも無い。
『望むな』
そうすれば、傷つかない。
他者の言葉は要らない。
今までそうしてきた。
これからもそうする。
ただ、それだけ。
待てなかった。
待とうと思った。
せめて、書類を書くまで―
携帯のアドレスが消える。
着信記録。
発信記録。
メールの受信箱。
送信箱。
そして、パソコンも同じように……
消し去った。
安堵する。
私が伸ばす手は無い。
私に届く声も無い。
ただ、傷跡だけが私に安らぎをくれる。
涙の雫の代わりに血の雫。
泣く必要なんて無い。
切る事は悪い事じゃない。
生きるために。
私が生きるために必要。
判ってなんてくれなくていい。
止めないでくれれば、それでいい。
止めない。罪悪は無い。
死ななければ、それでいい。
だって、変わったもの。
私は変わった。
傷が癒しになると知ったから――
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