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✞ ×5× ✞

2022/05/12
文字数:約584文字

【 刃物 】

4月15日(木)

嫌な事があったわけじゃない。
ちょっと、試してみたかっただけ。
死にたいわけじゃない。
ドキドキした。
刃が冷たく感じられた。
ちょっと動かしてみる。

切れない。

何度か切ってみようとするけど、
結局は跡がつくだけで切れなかった。
そう簡単に切れないんだと思った。



4月16日(金)

会社の人と焼肉屋へ。
夜だった、父に送ってもらった。
支部長の隣だった。憂鬱だった。
男は苦手。嫌悪の対象だった。
理由はとても簡単。
男の子にいじめられたと言う記憶があるから。
などなど……いろいろ。


4月26日(月)

会社に行く気が無かった。
辞めてしまいたかった。
自分の保険の成績を、
自分の保険でとるなんて馬鹿げていると思ったから。
でも、行かなきゃいけない。

紙飛行機を折った。

折って、折って小さな部屋が紙飛行機で埋まるくらい。
行く準備をしない母が部屋に来た。
「そんなに辛い?」
泣いた。
我慢していた涙が落ちた。

「休むんでしょ?」
電話に手をかけた私に母が聞いた。
私は電話で別の言葉を口にした。
「辞めたい」


父が帰ってきた。
「おかーさんが何か言ったのか?」
どうして、そうなるわけ?
私に意見は無いの?
苛立った。

父と会社の指導者さんとでお話。
今辞められると困る。頑張って。
二人ともそう言っていた。
でもそれは、私が必要だからじゃなく、
自分達にとって都合がいいからのように聞こえた。


結局、私は辞められなかった。




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