文字数:約1156文字
【 クッション 】
インターネットが繋がらなくなった。心のクッションを一つなくした。
ゴールデンウィーク中も、ネットには繋げなかった。
でも、この大型連休がなければ私はもっと早く
やっていたと思う。
5月12日(水)
指導者さん注意された。
一つはサンダル。
かかとで止める事が出来るものを
履いた方が良いと言われた。
一つはイラスト。
仕事中に描くのはダメと。
当然と言えば当然で、
それでも私はそうしなければ保てなかった。
ダメだと言う事ぐらい判っていた。
でも、指導者さんは「学生気分が抜けないのね」と呟いた。
そうじゃない。
たった一言が出てこなかった。
夜、どうしようもなくなって、遠くにいる友達に携帯メールした。
「辞めたい。辞められない。無断欠勤でもしようかな」そんな風に書いた。
「なかなか判ってもらえないのは仕方ない。
伝わるように頑張って。無断欠勤はこれからのためにもやめた方がいいよ~」
と、返ってきた。
これからのため?
これからのためにやめた方がいいの?
今は?今、伝えられない。伝わらないのに?
友達が正論なのは判ってる。
判ってる!!!
だけど、欲しかったのはそんな答えじゃなくて。
そうじゃなくて!!
欲しい答えが返って来なかったから
苛立つなんて可笑しい。
判ってるのに。
苛立ちが止まらなかった。
クッションの全てをなくした。
止まらない。
切った。切って、切って……
残ったのは罪悪感だった。
次の日の朝、頭の中はグルグルだった。
いつも指導者さんと一緒に会社に行っている、その車の中。
『違法性はない』
――道徳上は良くない――
『平気』
――痛い――
『誰にもわかりはしない』
――誰かにばれてしまったら――
『死にはしない』
――死ぬかもしれない――
『切りたい』
――切りたくない――
『楽だろう?』
――……楽だ――
ガンガンと頭が痛んだ。
インターネットは繋がった。
終わるかもしれないと思った。
止められるかもと思った。
……。
違った。
それは加速して、私を蝕み始めた。
従姉妹のえむちゃんが同じ会社に入ってきた。
私と同期で入った人は契約をたくさん取って来る。
置いていかれる気がした。
違う、置いていかれた気がした。
周りが早くて追いつけなくなる気がした。
指導者さんは私を追いつかせようと頑張っていた。
私だけが空回りをしていた。
頑張れない。
やる気がない。
気づかない事に安心しながら、気づいて欲しいと叫んでいた。
言葉にならない声が届くわけもない。
傷を手の甲につけた所でそれはただの切り傷で……誰も不審に思わない。
声はいつだって飲み込まれてゆく。
どうしようもないそれは―― 切る事で癒された。
会社に行く電車の中。 夜、パソコンに向かう時。
一人っきりになる僅かな時間―― 切る時間はどこにでも転がっていた。
「~趣味の会報~」のお守りが
「カッターの刃」に変わった。
それが、唯一のクッションになった。
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