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小さい頃は母親と手をつなぐものらしい。私の両手にあったのは、いつも荷物だった。
母の手は小さな妹たちのもの。弟が生まれた後は弟のものだった。
私とつなぐ手は母にはなかった。
そんな中の唯一の『母と手をつないだ記憶』
それは保育園を終了した後。
小学校入学前の準備などでバタバタしていた頃だったと思う。
母が突然に「散歩に一緒に行こう」と言いだした。
当時、家では犬を飼っていた。
私は犬が嫌いだった。今も動物全般が好きではない。
「ヤダ。だって、追いかけてくるもん。かむもん」
母は「リードを短くしているから、あんたの方に行かないようにする」と言う。
何度か「ヤダ」と言った気がするが、母の説得に負けて散歩に行く事にした。
リードは短くして散歩に歩き出す。
途中でいつもの散歩ルートではない事に気がついた。
「どこに行くの?」と聞くと、「これから、あんたが行くところ」とだけ言った。
着いた場所は小学校だった。
校庭には誰もいなかった。出入り口に低くかけてあるチェーンは中央が地面についている。
それを越えて、校庭へと入り込む。
昔は今のように閉鎖的な学校ではなかったから、できた事だった。
校舎はシーンと静まり返っていた。たぶん、春休みだったのだと思う。
私だけが、母と二人……と犬一匹で小学校までやってきていた。
遊具に腰掛けると母が、ぽつぽつと話す。
「あんたと、こんな風に二人きりになった事、なかったね」
「……そう?」
確かに考えてみると、そうだった。二人きりになるなんて事は不可能だった。
「だから、こうして二人で散歩したかった。来年から、あんたが通う小学校を見たかった」
「そっか」
「いつも、ごめんね」
単純にうれしいと思った気持ちが、母の言葉でしぼんだ。
「何が?」
「あんたを後回しにしてたり、負担をかけたりして」
「別に気にしていないよ」
そんな風に返したような気がする。
すこしだけ遊具で遊んでから、家に戻る事にした。
……と、今なら思うのだけれども、当時は「小学校って?ここは何?」だった。
見たことのないモノや知らないものを理解するって難しい。
そして、私は母も通っていた小学校に通った。
母の姉が、母を背負って行って追い返されたというあの小学校だ。
私が通っていた時は、もちろん赤ん坊を背負って通う子供は存在しなかった。
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