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それは小学校最後の日。
私は、臆病なひねくれ者になっていた。
教室に行くと、黒板に絵が描かれて、いろんな飾りつけがされていた。
それまでの教室とは別のように見えた。
ぐるっと見回して、気がついた。
教室の後ろに、クラスメイト全員の似顔絵が飾ってある。
私は、嫌な気分になった。なるべくそちらを見ないように、一日が終わる事を祈った。
卒業式が終わって教室に入ると、先生が来るまでしばらく時間があった。
飾りを見ていたり喋 ったり、皆が好きにしていた。
私は座っていた。何かを見たいと思わなかったし、早くこの場から立ち去りたかった。
こたみちゃんが私の傍にやってきた。
「あっちに、皆の顔が描いてあるよ。下級生たちが描いてくれたんだって。見に行こう」
私はさっき見た似顔絵の方に少しだけ視線を向けて、すぐに前を見た。
「行かない」
断られるとは思っていなかったこたみちゃんが、「なんで?」私に問う。
「何ででも!!嫌なの」
思ったよりも強い拒否になってしまった。
「……そっか」
一瞬、驚いた顔をした後、こたみちゃんは他の子とその似顔絵を見に行った。
私は自分の顔が、かわいいとは思っていない。
父が、散々「かわいくない」と言っていたからだった。
かわいくない私の顔の似顔絵なんて、見たくなかった。
それがただの思い込みだと知ったのは、ふとした拍子に自分の似顔絵を見つけてしまったからだ。
私の想像よりかわいく描かれているそれは、私が『かわいくない似顔絵』と勝手に思っていただけだったと思い知らされた。
小学校最後の通知表には、
「いつか、大輪の花になるでしょう」
というコメントが添えられていた。
大輪の花がどんな花なのか、全く想像もつかなかったし、皆にそう書いていたのかもしれない。
母は「良いことが、書いてあるわね」と言った。
小学校最後の先生を、母がとても気に入っていたという事もあるのかもしれない。
母が嬉 しそうなので、私は『大輪の花になる』を良い言葉として受け取った。
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