文字数:約1014文字
親子参観など、親子で何かをする事が多かった小学校時代。
私は大抵、父と組む事になった。ほっちゃん は母と、はーちゃん は祖母と組む。
その時は、図工でのこぎりを使って、何かを作る事になった。
何を作ったのかは覚えていない。
のこぎりで板を切っていると、父の声が飛んでくる。
「下手だなぁ。ちゃんとやれよ」
飛んでくるのは声だけで、父がやってくれるわけではない。
「のこぎりは引いて使うもんだろ。そんな事も分かんないのか」
知るわけがないし、知っていたとしてもそんな余裕はない。
周囲は大人が手伝って、サクサクと先に進んでいる。
私は口だけを出してくる父を前にして、一人でのこぎりと格闘していた。
指に痛みが走った。のこぎりが指を裂いて、血が滲 んだ。
「馬鹿だな。おまえほんとに、俺の子か?」
父の口から出てきたのは、心配ではなかった。
馬鹿にされるのはいつもの事なので慣れていたが、『俺の子か?』には耳を疑った。
父がのこぎりを仕事で使っているのは分かっているし、見たこともある。
親が使っているのだから、子供は自然に使えるようになるとでもいうのだろうか。
「それくらい。大丈夫だろ」
のこぎりで切った傷は大したことがなかった。それでも、傷口はギザギザで痛みもある。
疲れもあって、それ以降どんなに頑張っても板の切り目が進むことはなかった。
そうなってやっと、「代われ」と言って手を出してきた。
父は仕事で手慣れているので、私が切った切り目とは段違いの奇麗 さと速さで終わった。
父にとっては、「本当に俺の子か?」は『冗談』なのだろう。
***
ある委員会の仕事で、フェルトペンで色を塗る事になった。
こたみちゃんと同じ委員会だったので、こたみちゃんも同じ作業をしていた。
フェルトペンの色は12色で色は揃 っていて、好きに塗る事が出来る。
私はふと、『白』を塗りたくなった。
今から思うと、それは白い紙なのだから、塗らなければいいだけなのだけれども、どうしても白を塗りたくなった。
「白のフェルトペンって、ないかな」
「白?そんなの使う?」
こたみちゃんは即座に『ない』と答えた。
それでも、白を使いたいと思っていると、
こたみちゃんが先生に「白のフェルトペン、ありますか?」と聞いてくれた。
先生は「ないと思うケドなぁ」と言いながらも、確かめてくれた。
「あった」
棚の奥から白いフェルトペンが出てきた。
私はそれを手に、白菜の白い部分を塗った。
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