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高校に入って、初めての三者面談の時だった。
いつものように、可もなく不可もない会話で終わって、母と教室を出た。
次の人が入ってくのを目の端で見つつ、廊下を歩いて教室から離れて行く。
教室から離れて、階段を降りながら母がぽつりとつぶやいた。
「なんだか……」
「んー?なにー?」
母の言葉が途切れたのが気になって聞き返したが、母は無言だった。
「何?気になるんだけど?」
「ううん。やっぱり、気のせいだと思うから……あんたは何も思わないんでしょ?」
「えー?何よ?途中でやめないでよ」
「じゃぁ。言うケド……嫌な感じね」
母からは担任が嫌いとか、気に入らなかったとか、そんなものは感じない。
「え?どこが?」
「わからないけど……何となく」
それまで母が嫌悪を表したのは、中学の時の『元いじめっ子の先生』ぐらいだった。
けれども、その時は明らかな理由があった。
今回は何もない。何もないのに、『嫌な感じ』だと母が言う。
「気のせいだよ。特に理由はないでしょ?」
「そうだけど……あんたは何か感じなかった?」
そこで、担任が女子運動部の顧問だと聞いたときの、何となくザワリとした感じを思い出していた。
他にも「バレなければいい」という思考。時々感じる違和感。
「特に何もないよ。普通の先生だと思う」
母に言いながら、思い当たる節があった事も引っかかった。
「だったら、気のせいね。何もないのに、失礼ね」
階段を下りて、校舎を出るころには話題は別へと移っていた。
この時は『気にしすぎ』と思っていた。
それが正しい感覚だったと知るのはもう少し後。
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