文字数:約1472文字
守り人さんへの想いが膨らむことはない。
が、断ち切るだけの決断力が私にはなかった。
人と人との縁は『気が付いたら切れている』ものだった私にとって、『無理やり断ち切る』という選択をすることはとても難しかった。
日々、ぐだぐだと『もうヤダ。無理』と日記に書き連ねる日々。
守り人さんは私の中で、重たく要らないモノになっていたが、断ち切る事が出来ない。
そこに再び会長様が
『もう、無理でしょ。以前のようにはいかないケド、私が代わりにチャットをするようにするから』
と言ってくれた。
が、その時、守り人さんとも毎日のチャットはしていなかった。
気が付いたら、チャットに入ってみる。居なくてもいい。居たら話すという感じだった。
会長様の言葉があって、私は再び守り人さんに会って、ちゃんと話すことになった。
今回はオフ会をやらない。もっと、ゆっくりと会いたい人にだけ会う。
東京に行って、会長様に会う予定は入れたが、後は全て未定だった。
守り人さんには会う日だけを伝えて、時間は決めなかった。
そんな感じで決まった東京行き。
会長様とは朝早くから会うことになっていた。……未だになぜ、あの時間に会えたのか謎のまま……。
朝早くに会って、時間を潰 して、オフ会があったらオフ会に参加してというのが、いつものパターンになっていた。
この後も何回か、会長様に会いに東京に行ったけど、毎度こんな感じだった。
この時はオフ会がないので、お店が開くまで外を適当に歩き回って、お店が開いたらお店に入った。
ファミレスで軽い食事をとりつつ、雑談をする。
けれど、私はそれほど喋 る方でもないし、この時は会長様もそんなに聞きたい事があるわけでもなかったようだった。
隣の二人の女性の会話を盗み聞ぎしつつ、二人で向かい合って手だけ繋 ぐ。
食事はとっくに終わっていて、飲み物だけをタラタラと飲んで長居をしている。
会長様がとても疲れているように見えて、少しでも癒やされますようにと思いながら手を繋 いでた。
うつらうつらと会長様がし始めた。
朝早かったし、私のせいで疲れているのかなと思っているうちにテーブルに突っ伏してしまった。
「だから、別れなって言ってんの。そいつ、ロクな奴じゃないって」
「だって……」
「だってじゃなくてさ、ずっと言ってんじゃん」
隣の声がやけに大きく聞こえてしまう。
ああ。なんだか耳に痛い言葉だと思いながら、『だって』の気持ちがよく分かるような気がしてしまう。
やがて、隣の女性二人が立ち上がって会計を済ませる。
と、テーブルに突っ伏していた会長様が起きあがる。
「どこかで聞いた話だったね」
それが隣の会話を指していることはすぐに分かったが、私は黙っていた。
「隣の話、聞いていたでしょ」
「……はい」
「ね。周りは別れなって思っちゃうんだよ」
「付き合っているわけじゃないですけど」
「まぁ。うん。そうだね。でも、似たようなものでしょ」
「もう、大丈夫ですか?」
私は無理やり話を変えた。
「ん?うん。少しは眠れたし……でも、こんなところで寝ちゃうなんて」
「疲れていたのですね」
会長様は私をじっと見る。
「それもあるけど……そうじゃなくて……」
「?」
「なぜだか分かる?」
「???」
なぜそれを私に聞くのだろうか?
なぜなのか思い当たるものが何も出てこない。
「分かっていないなら、いいよ」
「????」
尚も何かあっただろうか?と考える私に会長様が笑う。
「もう、いいから。分からないなら、それでいいから」
私たちも会計を済ませて、お店を出た。
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