文字数:約908文字
「花火をしたい」と、何気なく言った私の言葉で、「花火をしようか」と言う事になった。
けど、別にそこまで花火をしたいわけでもなければ、こだわっていたわけでもない。
昼間に会って、ふらふらとショッピングモールを二人でうろつく。
オフ会はないので、本当に予定は一切ない。
何かをするわけでもなく、気がつくと日が落ちていた。
「質問はないの?」
会長様の言葉に、ぎょっとした。
それまで、「こんな得体のしれない人間、よく好きになるよね」と笑って話していた。
「それでも、好きだもん」
と、返して終わるのが、いつもの流れだった。
質問をかわすのが上手い会長様への質問は、意味をなさないのは分かっている。
なのに、今、質問を受け付けている事に驚いた。
と同時に、期待をしていない私もいた。また、いつものようにかわされるだけだと思った。
「何でもいいの?」
「いいよ。答えられるなら」
何とも言えない返事だなと思いながら、質問をする。
「いつも、朝早くに迎えに来てくれるのは何故?どうやっていたの?」
私は東京まで朝着の高速バスで来ていた。
その朝着のバス停まで、会長様は迎えに来ていた。電車の始発も動いていない時間……どうやっていたのか、ずっと謎だった。
「あー。確かに不思議だね。でも、それは内緒で」
想定内の返事がくる。
「そっか。じゃぁ。もっと簡単に、本名は?」
会長様が私をじっと見る。
「それ、サークルの会報に載せていなかった?知っていると思うけど」
「……知りたい」
ちゃんと会長様の口から聞きたい。
「見れば分かるんだから、いいじゃん」
これもダメか……と思いながら、本当に知りたい質問は答えてもらえそうにないなと感じた。
「他にはないの?もっと、答えられそうなものとか」
私が今更、『答えられそうな簡単な質問』をすると思っているのだろうか。
「以前、指輪をしていたよね。今、していないのは、何で?」
会長様は驚いたように私を見つめた。
しばらく沈黙した後、「気づいていたの?」と聞き返してきた。
私は黙って頷 いた。
「うーん。そっか。これも、そのうち話すから」
今、話す気はないんだなと思った。
全ての質問は、一つも答えがなく終わった。
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