文字数:約1198文字
派遣の仕事は、担当と呼ばれる人が窓口になってくれる。
ある派遣の仕事の担当さんと前職の仕事の話になった。
「前は保険の営業をやっていたんです」
良い思い出はないが、他に言いようがなかったのでそう答えた。
「へぇ。身体で稼いだんでしょ?」
私はポカンとしてしまう。それは歩いて営業先を回ったという意味なのか、それとも性的な意味なのかと考えた。
何も答えない私に担当は続けた。
「意味、分かる?」
その言葉で、後者の意味だと悟った。私はバカみたいに「あ。はい」と答えた。
「ああ。こんな事言ったら、セクハラになっちゃうか」
担当はへらへらと続けた。当時の私と同世代 ぐらいに見えたが、発言はおっさんのそれと同じだった。
その担当での仕事は、最終的に『黙って派遣先を替える』事になったのを、私が知らずに元の派遣先に話してしまった事で終わった。
それとはまた、別の派遣会社での話。この会社の期待値は最低値に近かった。
同じ職場で働いていた人が話してくれた。
「待機って言う仕事があってね。その場所にいたら、何をしていてもいいって言う楽な仕事があったんだ」
待機の存在は知っていたけれど、本当にそんな無意味な仕事があるんだと感心してしまった。
私の仕事は待機ではなくて、工場系だった。体調が悪くて休みの連絡を入れた時の事。
「はぁ?何で、もっと早く言わないの?突然言われても困る」
私は担当からそう怒鳴られた。
連絡した時間は、出勤時間1時間以上前で、そんな風に言われた仕事は今までなかった。私は、次の日も休みの連絡をした。
「はぁ?診断書を貰 って来い。社会人としておかしい」と言われた。仕事で『社会人としておかしい』という言葉を、初めて聞いた気がした。
と思ったが、以前、保険の営業の無断欠勤で言われただろうか。無断欠勤に比べれば、ちゃんと連絡を入れているだけ、社会人としてマトモである。
三日目は仕事に行ったが、担当以外からは特に何も言われなかった。
その担当は、契約期間終了の知らせを私に通知しなかった。
私は休み明けに仕事に行った。着替えて職場に入ると、社員さんがやってきて私に言った。
「どうして、ここにいるの?」
私はきょろきょろと他の派遣社員さんを探してしまう。今日は休みだと言われていただろうか?と考えたが、そんな連絡は来ていなかった。
「え?なぜですか?」
「もう、契約は終わっているから来なくていいのよ」
私は社員さんの言葉に耳を疑った。担当に連絡をするが繋 がらない。担当と連絡がついた他の派遣社員さんから「契約終了」の話を聞かされた。
しばらくして、担当から連絡があった。
「すみません。連絡してませんでした。今日の交通費は手渡ししますので、会社の方に来てください」
社会人としておかしいのは、どちらだろうかと思った。
同時にこの派遣会社のブラックぶりに嫌気がさしたので、再びこの派遣を使う事はなかった。
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