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✞ ☆8☆ 遠距離2 ✞

2023/07/27
文字数:約1265文字
 巴さんの家で、一週間過ごしたが、私の心理面も肉体面もボロボロだった。巴さんの家についた途端に、泣きだしてしまって、巴さんを心配させた。さらに次の日には、微熱が出た。
 そして、一週間、私は微熱の身体で過ごした。熱以外はせきが出る事も、鼻水が出る事もあまりなかった。
 微熱がずっと続いたので、巴さんはずっと私の心配をしていた。申し訳ないなと思った。

 ワンコは私を『得体のしれない客人』と思ったのか、1・2日間はずっと私の傍にいて、見張っていた。
 正直、動物全般が苦手なので、近づかれても触る事も出来ないどころか、動けない。
 巴さんは「だったら、先に言ってよ」と言われてしまったが、小さな犬と聞いていたので、大丈夫かもと思ってしまったのだ。
 大丈夫ではなかった。えられるとやっぱり怖い。

 熱を出してしまったけれども、気分が良い時は出かけたり、遊びに行ったりもした。
 そうこうしているうちに、最終日になった。

「何で、聞かないの?私が仏壇にお参りしている事」

 彼女は毎日の日課でそうしているのを、私は見ていた。時には、花を替えるのを手伝ったが、それに関して何かを聞こうとは思わなかった。
 家族は皆、亡くなっていると言っていたし、仏壇に手を合わせるのは不思議な事ではない。話したければ、勝手に話すと思って触れなかった。
 けれど、巴さんはそれが不満だったようだ。

「何を聞けばよかったの?」

 微熱続きの身体は、常にフワフワしていて何が正しいのかが分からない。
「宗教とか、何故こうするのかとか」

 宗教は法華経系というのもすでに聞いている。それ以上何を聞けばいいのか、分からない。
「うん。法華経でしょ」

「ああ。言ってたか。ノアちゃんの宗派は何?」

 私は宗派なんてものを気にするほど、信心深くはない。けど、ふと頭におばあちゃんが歌っていた歌が浮かんだ。
『しんらんさまは すこやかに わたしのとなりに いらっしゃる♪』
 おばあちゃんの家に行くと、寝る前に仏壇に手を合わせてこの歌を歌った。

「よく分からないけど、しんらんさま?」

「ああ。わしゃ知らんって言う、親鸞しんらんね」

 一瞬ぽかんとしてしまった。次に私の中に沸き起こったのは、怒りだった。おばあちゃんとの思い出を踏まれたような気がした。

 けど、私は笑った。
「そうなんだ。よく分からない」

「そうなんだよ。結局人任せで、何もしないのが親鸞しんらん

 宗教の話をしてはいけないというのは、こんな事なのかと思った。信仰なんてないが、私にとって親鸞しんらんは『おばあちゃんとの思い出』なのだ。他の宗派の人間にこんな形で馬鹿にされたくはない。

 一週間がたって、私は帰った。
 帰った後も微熱がしばらく続いて、動けなかった。数日たってから、感謝のメールを送った。

『何故、すぐに送って来ないの?心配するじゃん』

 《心配って何?》と思う私と、《ありがたいと思わないといけないな》と思う私がいた。
『ごめんね。ありがとう』
 と返事をして、私はまた数日寝込んだ。

 体調が戻ったのは、一週間ほどたってからだった。
 巴さんとは、疎遠になってしまった。




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