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ビアンチャットで知り合ったゼロ君は、自分はFTMだと言った。身体は女性で、心が男性というものである。
ゼロ君は会話が『雑』だった。
全く反応しないよりはマシだが、話していて楽しいと言える相手かと言われると微妙だった。
最初のチャットで、「へー。そうなんだ」が続く。
「そうなんだ」が3度続くと、相手の話に関心がないのかなと思うので、気分が悪くなる。
私がそれでもチャットをやめようとは思わないのは、弟が「そうなんだ」で返してくる人間だったので、鍛えられたというのもあるかもしれない。
話ができる人は「そうなんだ」が続かないように、「そうなんだ」の後で何か自分の言葉を入れる。
もしくは、続いたとしても「勉強になる」「物知りですね」など、別の言葉に置き換える。
それをせずに「そうなんだ」が続くのは、小学生か、コミュニケーションをとってこなかった大人のような気がする。
ゼロ君もその類 なのかなと思った。
「彼女がすぐ怒るんだケド、何で怒っているのか分からないんだよね。何で怒るんだと思う?」
ゼロ君の話に内心『そうだろうね』と思いながら、「何ででしょうね。私は彼女さんではないので、分からないです」と答えておいた。
コミュニケーションの努力がないから怒りだすのだろう。怒ったとしても相手がなぜ怒っているのか分からないのだろう。
もちろん、怒っている相手だっていつも何も言わずに怒るわけではなく、『理由を伝えている』と思う。
ゼロ君にはそれは全く届いてないし、理解できていない。ゼロ君の目には『それくらいで怒るなよ』という事象が目の前にあるだけで、そこまでに至った経緯も見えないのだろう。
チャットも、ゲームをやりながらだと言っていた。
別にそれ自体は大した事ではないのだが、まだ数回しか話していない相手にわざわざ伝える無神経さ。
こちらもいろいろやっているので、文句を言うつもりはないが、片手間で話をされていると思うと気分が悪い。
その日も、ゼロ君はゲームをやっていますと言いながら、チャットをしていた。
「同性同士は浮気にならないみたいですね」
私はわざと、その話題を振った。
返事は「そうなんだ」で終わった。いつものように意味を考えていないのだろう。
「どう思います?」
もう一言欲しいなと思って、突っ込んでみる。
「ん?別に、同性同士なら当然じゃない?」
いまだに戸籍も身体も弄っていないゼロ君は、戸籍上では女性だ。
ゼロ君の彼女の立場では、いろんなものが不安になるだろうにそれらにも興味がないのだろう。
ビアンサイトに出入りしている恋人もちで、恋人には内緒というのは揉 め事の種にしかならない。
まさかと思って、もう一つ聞いてみる。
「恋人はこのサイトの事を知っているんですか?」
「え?言う必要ある?」
私は面倒事が嫌なので、ゼロ君とやり取りするのをやめた。
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