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その職場は同年代が多くて、恋愛話もお互いに聞き合っていた。
私は会長様の事を話していた。恋人としてではなくて、好きな人として話す。
ただ一つだけウソをついた。『彼女』ではなくて『彼』と言っていた。
「でね。彼に抱きつかれちゃって」
「……ねぇ。それ、本当に男性?」
そう聞いてきたのは、モモさんだった。モモさんは、職場に年下の彼がいる。
彼が年下すぎて自分で良いのかと悩んでいる話を聞いていた。
私は、モモさんの意外な発言に沈黙してしまう。
異性愛者がそれに気がつく事は、ほぼない。多少おかしな事があっても、『変わった男性ね』と脳内変換するからだ。
女性らしい男性がいても不思議ではないし、その範囲内で話をしていたつもりだ。
モモさんの彼も、コンビニエンスストアで長く泣かれて困った事を話してくれていた。
私は迷った後、「何でそう思うの?」と聞いてみた。
「うーん。なんか、いろいろとおかしい気がして」
その言葉に侮蔑や嫌悪は見当たらないような気がした。
「そっか。分かっちゃうものなんだね」
私は感心してしまった。
モモさんは目を見張って、「やっぱり?……って、え?」と、パニックになっていた。
「うん。女だよ」
私は素直に頷 く。
「え?……本当に?」
私は再び頷 く。
「……ウソ。そんな風に見えない。だって、カタチさんって普通だし」
私はそれを黙って聞いていた。
ひととおりパニックが収まったところで、モモさんが重大発言をした。
「私もだよ。同性が好きなの」
「え?」
次はこちらが驚く番である。モモさんが年下男性と付き合っているのは、知っている。
異性愛者だとずっと思っていた。
「あ。今は、彼と付き合っているけど、もともとは女性が好きなの」
「え……それは、彼は知っているの?」
「私が女性を好きって言う事?知らないよ。言っていないもん」
モモさんは、あっけらかんと言った。
「だから、彼に告白された時も付き合う気はなかったんだよ。でも、おねぇがさ……あ。おねぇも私と一緒で、同性愛者。
今は彼女がいるの。で、おねぇに、試しに付き合ってみたらって言われて、付き合ってみてるんだけど」
姉妹そろって、同性愛者という事までモモさんは話してくれる。
それって、親はどう思うのかなと頭をかすめた。
「男っぽくないし悪くはないんだけど、頼りがいがなくて……年下だからしょうがないかなって思うんだけど」
私の話は消えて、モモさんの話になっていた。
でもやっと、同類だから感づいたのかと理解した。
その後も、女性と付き合っているおねぇの話や、男っぽくない彼の話をモモさんは話してくれた。
私はと言えば、モモさんの聞き役になる事が多かった。
モモさんはメルアド交換などは嫌いだと言っていたので、しなかった。
仕事をやめると、モモさんとの関わりもなくなった。
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