文字数:約1176文字
仕事がなかったころ。
ハローワークに行く途中で、同級生に会った。
「久しぶり」
相手から声をかけられて、振り返ると懐かしい顔だった。
彼は高校の相談室仲間の一人で、中学では生徒会長をしていた事もある。
「何しているの?仕事に行く途中?」
私は素直に、ハローワークで求職中だと答えた。
彼は休職中で、仕事で鬱病 になって今はカウンセリングを受けているのだと言った。
簡単に近況を話して、別れ際に「時間があったら、お茶をしない?」と誘われた。
求職中でハローワークの用事が終われば、時間は有り余っていた。彼はカウンセリングが終われば、時間があると言っていた。お互いに用事が終わったら、連絡をするためにメルアド交換をした。
ハローワークでの用事が終わって、携帯を見るとメールが来ていた。
『駅前の喫茶店にいるから、来て』
同級生君からだった。私は、慣れない駅前でメールに書かれていた喫茶店を探してお店に入った。
きょろきょろと店内を見渡すと、小さく手を振る同級生君を見つけた。私は同級生君に向かい合うように座る。
「待った?」
私は何気なく同級生君にそう聞いた。同級生君は少し驚いた顔をして、「別にそんなに待っていない」と言った。
コーヒーを注文して、私は同級生君と詳しい近況を話し合った。
「ところでさ、他の人たちと連絡取っている?」
そう聞かれて、答えに困る。高校卒業時に携帯電話を持っていた事は、誰にも言わなかった。
ほとんどが県外へ出ているという話しか知らないので、連絡は取っていない。
「ううん。連絡先は誰にも教えていないから」
「そうか。俺も似たようなものかな。唯一、Nとは連絡を取っていたけど……」
こたみちゃんの元カレの名前が出てきて、少しドキリとする。
「そういえば、こたみとは仲が良かったんじゃなかった?」
「うん。そうだけど、番号は教えていないから」
私はうそをついた。こたみちゃんとは、険悪になって連絡を絶ってしまっていた。
「そっか」
同級生君はそれ以上、こたみちゃんの事は聞いて来なかった。
帰りの電車は同じなので、電車の中でも話が続く。
電車では4人掛けのボックス席に向かい合うように、座った。
話も尽きて、しばらく無言の時間が出来た。
「ねぇ。俺と付き合わない?」
唐突の告白に、私は言葉が出なかった。
何がどうしてどうなったら、『付き合おう』になるのだろうか。
私はただ、久しぶりに会った同級生とお茶をしただけである。
「え?何で?」
かなりテンポが遅れて、私は疑問を投げつけた。
「いや。俺たち、気が合うでしょ?こんなにたくさん話もしたし」
確かに私は、学生時代は人と話さなかった。同級生君の私のイメージは『喋 らない私』なのだろうと思う。
これだけ私が喋 るという事は、俺に気があるのか……と、誤解したのだろうか。
妄想力のたくましさに、眩暈 がする。
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