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✞ ☆19☆ コンサート1 ✞

2023/07/27
文字数:約1113文字
 仕事の昼休憩で、私は読書か資格取得の勉強をしていた。
 人と話すのが苦手な私は、ずっと休憩時間は読書で過ごした。胸ポケットに本は必須だった。

 幸いそんな私を放っておいてくれる人が多く、私は気兼ねなく勉強をした。

 やがて、ある社員が声をかけて来た。
「頑張っているね」という言葉から始まり、「この本、読む?」とお勧めの本まで持って来た。
 正直私は、迷惑だった。持って来た本も私の好みとはかけ離れたものが多かった。

 ある日、本の中にあった『問題』を私に出してきて、「この本を読んでみて考えて」と言った。
 その言葉には、『お前には分からないだろう』という見下しが見え隠れしていた。


 私はその問題を、会長様に聞いた。会長様でも曖昧な知識しかなく、会長様のお友達に聞いて、やっと答えが分かった。

 本を返すと、社員さんが「どうだった?」と聞いてきた。
 私は答えを言った。すると、社員さんは「よく知っていたね」と驚いた顔をした。
「知り合いに聞いたんです」と答えると、「へー。そんな知り合いがいるんだ」とさらに驚いた感じで続けた。

 休憩時間に誰とも話さない私は、人付き合いがないと思われているのだろう。
 そこからは、「読みたい本が他にあるから、本は要りません」と本を借りるのはやめた。

 しばらくして、私は旅行のお土産を同じ部署の人たちや親しくなった人たちに渡した。一応、社員さんにも渡した。
 しかし、それを勘違いされてしまったらしい。再び、しつこく話しかけてくるようになった。


「オーケストラのコンサートに興味はないか?」

 そう聞かれて、私は「音楽はよく分からない」と答えた。

「そっか。実は年に一度、格安でコンサートがあって、毎年チケットを取るのが大変なんだ」
 大変だという事を自慢したいのかなと思って、「そうなんですね。大変ですね」と聞いていた。
 本に目を向けたい私は、社員さんの言葉を半分流しながら聞いていた。

 数日たって社員さんが私にうれしそうに近づいてくる。

「チケットが取れたよ」

 社員さんは私にチケットを渡してきた。それは数日前に話していたオーケストラのチケットだった。


「お金は当日に会う時に払ってくれてもいいよ」
「今、払います」
 気持ち悪かったので、すぐに支払ってチケットを受け取った。

「このチケットを取るの本当に苦労したんだよ。数分後には売り切れになっていて、取れなかった人がたくさんいたんだよ」

 社員さんは苦労自慢をしてくる。いかに自分がすごい人間なのかというアピールに見えて、ウンザリする。
 でも、ここは職場で社員の機嫌を悪くするのはあまり良いとは言えない。
「すごいですね」「チケット、取れて良かったですね」など、適当に褒めておく。




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