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悪夢はここからさらに加速する。
「ね。キスしよ」
「無理です」
「恥ずかしがらなくていいよ。恋人なんだしさ」
無理と続けると、「じゃぁ。映画のチケットを買ってこよう」と契約社員さんは諦めた。
私も外に出る。このまま、どこかに行こうかなと思ったが、契約社員さんは手を握ってきた。
「恋人なんだから、これくらいは良いでしょ」
私はもう、何かを言う気もなくなった。
チケットを買うと、近くのプリクラに行った。
「まだ、時間があるから、プリクラでも撮ろうか」
時間が遅いせいか、人は思ったよりもまばらだった。
プリクラのスペースに入ると、契約社員さんは私を抱きしめて来た。
「ここなら、誰も見ていないよ」
そう言って、不意にキスをして来た。プリクラで男性の入場制限がある理由を理解した。
身体を後ろに引こうとするが、契約社員さんの手は私の肩をがっつりと掴 んでいる。
今までの男たちの【総まとめ】のような人間だなと思った。
『クリスマスに恋人を作って、デートして、あわよくば……』というストーリー以外が見えていない。私と付き合いたいわけではなく、『女ならば誰でもいい』という今までの男たちと同じ。
黙ってされたままにしていると、舌をねじ込ませてきた。
いろいろなものが面倒だ。もう、この男と話す事さえ嫌だ。
されるがまま放っておく事にした。
しばらくすると、男は満足したのか唇を離した。
「気持ちよかった?」
私は黙っていた。それを相手は勝手に『気持ちが良かった』と解釈する。
私が何を言ったところで『恥ずかしいからそう言うだけで、気持ちがいいと思ったのだ』となるのだから、私の言葉は要らない。
結局、プリクラは撮らなかった。
「まだ、時間があるから、車に戻ろう」
車に戻ると再び、キスをする。せめて、うがいをしてからした方がいいのにと思った。
先ほど食べたポテトの臭いと味がする。
先ほどよりも長くじっくりと口内を味わって、男は私から身体を離した。
映画の時間になり、映画館に入った。
スクリーンには、アニメが映し出される。私が、このアニメキャラのストラップを付けていたので、男が『カタチさんはこのアニメが好き』と勘違いした結果だった。
ストラップを付けていたのは携帯を取り出しやすいからで、アニメ自体はファンというほどではない。
隣を見ると男は熟睡していた。無理に映画に付き合ってあげた感がすごいなと思った。
私はと言えば、物語が好きなのでしっかりと見ていた。見ている最中に邪魔をされないのは助かったとすら思った。
映画が終わって、映画館を出る。
「僕、寝ちゃってた。全く見ていなかった。映画は面白かった?」
悪びれるでもなく、男はそう言った。私は黙って頷 いた。一言も発したくはない。早く帰りたい。
車に乗って、帰るものだと思ったが、男は別の事を言った。
「僕の家に来ない?ムラムラしちゃって、続きがしたい」
映画中にぐっすり寝ていた男は夢の中で、何を見たのだろうか。
私は今すぐにも帰りたいのだが、男と言い合う気力もない。
黙っていると、勝手に話が進む。
「君もムラムラしない? 飲み物がないから、コンビニで飲み物を買おう」
そう言って、車はコンビニエンスストアへと向かった。
コンビニエンスストアにつくと、適当に飲み物を選ぶ。
「あ。コンドームも買っておくね」
なぜ、私にコンドームを買う報告をしてくるのか理解できなかった。
それは、私が『同意』をしていると確認したいのか、単に準備不足を私に伝えたいのか。
私は何も言わずに、それを見ていた。
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