※性行為の表現があります。
文字数:約1619文字
男の部屋に着く。部屋は物が多くて、汚く見えた。
敷きっぱなしの布団が目に入る。どう見ても、『敷きっぱなし』だ。
ロマンチックな雰囲気も何もない事に、呆 れる。
男の中では勝手な『物語』が仕上がっている。
【クリスマスには恋人と過ごす】
女を食事に誘う。それも、安い回転ずし。
女に告白する。クリスマスは恋人になった記念日。ただし、女の断りの言葉は聞かない。
俺は食事代をおごったのだから、恋人になる権利を得ているはずだ。
女にプレゼントをする。それも、めちゃくちゃ可愛くてセンスのいい服。女は喜んでくれた。
女を映画に誘う。それも、女が好きそうな映画。ちゃんと持ち物を見て判断した。
映画は寝てしまったが、付き合ってやった俺はすごい。
女を家に誘う。黙ってついてきてくれた。という事は、やっていいって事でここまでお金をかけてよかった。
MISSION COMPLETE
突っ込みどころは満載だ。
部屋を片付けもせず、女を誘う勇気に感服すらしてしまう。
私がただ、突っ立っていると、「ほら脱いで脱いで」と、私の服に手をかけてきた。
私は男を黙ってみていた。
服は静かに脱がされていく。私の服を脱がすと、男は自分も服を脱いだ。
男は私の身体の下半身へと早速手を伸ばす。分かりやすく言うと、そこしか触らない。
私はと言えば、男に触るのさえ嫌で手の置き場に困っていた。
「ほら、こんな風に抱きしめて」
私の手を持って男は、自分を抱きしめるような感じに動かす。
私はそのままの形で動かない。まるでお人形のようだった。動かされれば動くが、それ以外は動かない。
やがて男は私の手を、自分の下半身に持っていった。
「ほら、すごいでしょ」
そう言われても、何がすごいのか分からない。アダルトビデオと比べてしまうが、すごいとは思えない。父が肉体労働者なので、筋肉質な体が私の好みだった。
父の筋肉と比べると、男の腹は出ているし、筋肉らしきものは見えない。私は見たくもない不格好な体を見せられているだけだった。
「こすってみて」
男はそう言って、私の手に自分の手を当てて動かしていた。私の手では、いけそうもなかった。
「しゃぶってよ」
さすがにそれは、嫌だったので首を振った。
「少しだけでも」
私は再び首を振る。
「じゃぁ。仕方ないね。そのうち、出来るようになるといいね」
クズ男っぷりがすごいなと思った。
男は自分の手で物をたてて、コンドームを付けた。
「いくね」
男が私の中に入ってくる。痛みはなかったが、痛いふりをしておく。
「大丈夫?痛くない?」
男の言葉が白々しく飛んだ。そう言いながらも、男はやめようとはしない。
「ほら、全部入ったよ」
男は私に接合部を見せつけてきたが、暗くてよく分からなかった。
やる事をやって、満足したのか男は抜いて布団に倒れ込んだ。
「よかった? 君も一緒にいけた?」
残念ながら、私には『イク』感覚が分からない。黙ったままでいると、男は『肯定』と受け取ったようだった。
「よかった」
満足げに男は言う。
どこまでも自分本位な人間にウンザリする。
帰りは送ってもらったが、私が住んでいる場所は明かさなかった。近くで降ろしてもらって、男と別れた。
私は傷ついていた。
私が思ったよりも傷ついていない事と、これが愛しの君の夜と同じである事に。
誰が抱きしめても、私の身体の認識は『私のものではない』と感じている。
性行為をしてもそれはどこか『他人事 』としか感じない。
それに気がついて、私は傷ついていた。
男とは、それきり会う事はなかった。
仕事は年明けには契約終了となっていたが、それを知らされたのは契約終了後だった。
私は地元に戻った。
男からはメールが来たが、内容は忘れた。
『地元に戻ったので、恋人関係は解消されました』
私はそんなメールを送った。それきりメールも来なくなった。
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