編集

✞ ☆26☆ クリスマス4 ✞

2023/07/28
※性行為の表現があります。
文字数:約1619文字
 男の部屋に着く。部屋は物が多くて、汚く見えた。
 敷きっぱなしの布団が目に入る。どう見ても、『敷きっぱなし』だ。


 ロマンチックな雰囲気も何もない事に、あきれる。
 男の中では勝手な『物語』が仕上がっている。

【クリスマスには恋人と過ごす】
 女を食事に誘う。それも、安い回転ずし。
 女に告白する。クリスマスは恋人になった記念日。ただし、女の断りの言葉は聞かない。
 俺は食事代をおごったのだから、恋人になる権利を得ているはずだ。
 女にプレゼントをする。それも、めちゃくちゃ可愛くてセンスのいい服。女は喜んでくれた。
 女を映画に誘う。それも、女が好きそうな映画。ちゃんと持ち物を見て判断した。
 映画は寝てしまったが、付き合ってやった俺はすごい。
 女を家に誘う。黙ってついてきてくれた。という事は、やっていいって事でここまでお金をかけてよかった。

 MISSION COMPLETE

 突っ込みどころは満載だ。
 部屋を片付けもせず、女を誘う勇気に感服すらしてしまう。

 私がただ、突っ立っていると、「ほら脱いで脱いで」と、私の服に手をかけてきた。
 私は男を黙ってみていた。

 服は静かに脱がされていく。私の服を脱がすと、男は自分も服を脱いだ。

 男は私の身体の下半身へと早速手を伸ばす。分かりやすく言うと、そこしか触らない。
 私はと言えば、男に触るのさえ嫌で手の置き場に困っていた。

「ほら、こんな風に抱きしめて」

 私の手を持って男は、自分を抱きしめるような感じに動かす。
 私はそのままの形で動かない。まるでお人形のようだった。動かされれば動くが、それ以外は動かない。

 やがて男は私の手を、自分の下半身に持っていった。

「ほら、すごいでしょ」

 そう言われても、何がすごいのか分からない。アダルトビデオと比べてしまうが、すごいとは思えない。父が肉体労働者なので、筋肉質な体が私の好みだった。
 父の筋肉と比べると、男の腹は出ているし、筋肉らしきものは見えない。私は見たくもない不格好な体を見せられているだけだった。


「こすってみて」

 男はそう言って、私の手に自分の手を当てて動かしていた。私の手では、いけそうもなかった。

「しゃぶってよ」

 さすがにそれは、嫌だったので首を振った。

「少しだけでも」
 私は再び首を振る。

「じゃぁ。仕方ないね。そのうち、出来るようになるといいね」

 クズ男っぷりがすごいなと思った。
 男は自分の手で物をたてて、コンドームを付けた。

「いくね」
 男が私の中に入ってくる。痛みはなかったが、痛いふりをしておく。

「大丈夫?痛くない?」
 男の言葉が白々しく飛んだ。そう言いながらも、男はやめようとはしない。

「ほら、全部入ったよ」
 男は私に接合部を見せつけてきたが、暗くてよく分からなかった。

 やる事をやって、満足したのか男は抜いて布団に倒れ込んだ。


「よかった? 君も一緒にいけた?」

 残念ながら、私には『イク』感覚が分からない。黙ったままでいると、男は『肯定』と受け取ったようだった。
「よかった」
 満足げに男は言う。

 どこまでも自分本位な人間にウンザリする。



 帰りは送ってもらったが、私が住んでいる場所は明かさなかった。近くで降ろしてもらって、男と別れた。





 私は傷ついていた。
 私が思ったよりも傷ついていない事と、これが愛しの君の夜と同じである事に。

 誰が抱きしめても、私の身体の認識は『私のものではない』と感じている。
 性行為をしてもそれはどこか『他人事ひとごと』としか感じない。
 うれしいも悲しいもない。

 それに気がついて、私は傷ついていた。



 男とは、それきり会う事はなかった。

 仕事は年明けには契約終了となっていたが、それを知らされたのは契約終了後だった。
 私は地元に戻った。

 男からはメールが来たが、内容は忘れた。


『地元に戻ったので、恋人関係は解消されました』
 私はそんなメールを送った。それきりメールも来なくなった。




<<前  目次  次>>