編集

✞ 12話 お嬢様の文集 ✞

2023/02/15
文字数:約901文字
 2学年の最後に文集を作る事になった。
 皆がそれぞれに好きな事を書いた。

 最後の日が近づくと、お嬢様の引っ越しが担任から発表された。
 誰もがホッとしたと思う。
 次の学年はクラス替えがあるとはいえ、この学校にお嬢様がいる限り同じクラスになる可能性はある。
 その可能性がなくなった。
 最後は大きな事件もなく、淡々と終わっていった。

 春休みになって文集を開いてみた。
 皆のページを一つ一つ読んでみる。
 自分のページは恥ずかしくて、飛ばした。
 さらに進めると、お嬢様のページがやってきた。
 そこには

「本当の友達が欲しかった」

 と、書かれていた。
 スッと冷めた気分になった。

 だったら、あんなに人をいじめなければ
 だったら、あんなに人の物を壊さなければ
 だったら、あんなに人に暴言をかなければ

 そうすれば、友達はできたはずなのに。

 と、怒りにも似た気持ちと同時に、彼女自身も分かっていたのだと、知った。
 どれだけ取り巻きが傍にいても、彼らは友達ではない。
 友達と言うには遠すぎた。
 お嬢様に「新しい学校に行っても頑張ってね」とは言っても、「寂しくなるね」や、「一緒に進級したかったね」とは誰も言わなかった。

 私はその後に、転校する子にそんな風に言っている子達をみて、『別れの時はそう言うんだ』と知った。
 お嬢様には言えなかったし、思いもしなかった。
 早く引っ越してほしいと思っていた。

 文集には彼女の悲しみだけが残されている。
 だれも、文集にはいじめの事なんて書いていない。他の子は『楽しかった思い出』を残している。
 でも、お嬢様がその学年でずっと思っていたのは『本当の友達が欲しい』だったのだ。
 お嬢様の文章はまるで、お嬢様がいじめの被害者であるかのようにも見える。

 いや。ある意味『友達を得る方法』を教えられる事がなかった彼女は、被害者ともいえるかもしれない。
 ……周りの方がはるかに大きな被害にあったけど。
 もしも誰かが、彼女の寂しさに気が付けたら何か変わったのかもしれない。
 気がつかなかった私が、そう思うのもおかしいのだけれども。


 今、お嬢様の傍には『本当の友達』がいるのだろうか?
 時々、そう思う。





<<前  目次  次>>