文字数:約901文字
2学年の最後に文集を作る事になった。
皆がそれぞれに好きな事を書いた。
最後の日が近づくと、お嬢様の引っ越しが担任から発表された。
誰もがホッとしたと思う。
次の学年はクラス替えがあるとはいえ、この学校にお嬢様がいる限り同じクラスになる可能性はある。
その可能性がなくなった。
最後は大きな事件もなく、淡々と終わっていった。
春休みになって文集を開いてみた。
皆のページを一つ一つ読んでみる。
自分のページは恥ずかしくて、飛ばした。
さらに進めると、お嬢様のページがやってきた。
そこには
「本当の友達が欲しかった」
と、書かれていた。
スッと冷めた気分になった。
だったら、あんなに人をいじめなければ
だったら、あんなに人の物を壊さなければ
だったら、あんなに人に暴言を吐 かなければ
そうすれば、友達はできたはずなのに。
と、怒りにも似た気持ちと同時に、彼女自身も分かっていたのだと、知った。
どれだけ取り巻きが傍にいても、彼らは友達ではない。
友達と言うには遠すぎた。
お嬢様に「新しい学校に行っても頑張ってね」とは言っても、「寂しくなるね」や、「一緒に進級したかったね」とは誰も言わなかった。
私はその後に、転校する子にそんな風に言っている子達をみて、『別れの時はそう言うんだ』と知った。
お嬢様には言えなかったし、思いもしなかった。
早く引っ越してほしいと思っていた。
文集には彼女の悲しみだけが残されている。
だれも、文集にはいじめの事なんて書いていない。他の子は『楽しかった思い出』を残している。
でも、お嬢様がその学年でずっと思っていたのは『本当の友達が欲しい』だったのだ。
お嬢様の文章はまるで、お嬢様がいじめの被害者であるかのようにも見える。
いや。ある意味『友達を得る方法』を教えられる事がなかった彼女は、被害者ともいえるかもしれない。
……周りの方がはるかに大きな被害にあったけど。
もしも誰かが、彼女の寂しさに気が付けたら何か変わったのかもしれない。
気がつかなかった私が、そう思うのもおかしいのだけれども。
今、お嬢様の傍には『本当の友達』がいるのだろうか?
時々、そう思う。
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