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相談室に通うようになって、私は心地いい時間ができるようになった。
雑談をして、絵を描いて、言葉を書く。
落書きの為の小さなノートは常にポケットにあった。
そうしているうちに、受験の時期になり、「どこに行くの?」という話も出てくる。
進学情報誌も届いて、パラパラとめくっているうちに、やっぱり『落書き』をしたいなと思い始めた。
そうするためには、親を説得する必要が出てくる。
3年になる頃には、親を説得する準備に入った。手伝いを増やして、親の機嫌を取る。
テストの点数はどんどん下がっていたけど、入りたい学校はそれほど学力を必要としない。
親は私のテストの点数なんて、興味がなかったので、成績で機嫌を取る必要もない。
親を説得するために情報を集めて、どれくらいならば『説得できる金額』かを考える。
奨学金の情報と、地理。都会すぎる東京では反対される可能性が高い。
東京ほどではないけど、そこそこの場所で、安心できる距離と金額。
説得する材料が揃 ったところで、まずは、母に伝えた。
母は一瞬、険しい表情をした後に「いいんじゃない?お父さんを説得できるなら」と父に丸投げをした。
母を説得するのはそう難しくないが、父はそうはいかない。
案の定「それは、難しいんじゃないか?」と言った。
「ダメ」とは言わないが、首を縦にも振ってはくれない。説得材料を全部出し切ったところで、やっと
「やりたいなら、やってみろ」
と言ってくれた。
母は「あなたの為 の結婚資金を進学に回す」と言った。
女の子の進学は、全くの予想外で、家にあるお金は「結婚資金」だけと親は想像していた。
後から聞くと、「結婚するわけでもないのに、家を出るなんて」とも思っていたらしい。
私は、結婚と引き換えに進学を選んだ。という、わけではないけど、今、結果的にそうなっている。
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