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✞ 7話 足つぼ講習 ✞

2023/07/21
文字数:約976文字
 足つぼを習おうと思ったのは、『分かりやすい』からだった。
 健康に気を使っているようにみえて、人の役にも立てるようにみえる。

 別に健康に興味はないし、人の役に立ちたいわけでもない。
 でも、それが『分かりやすい』生きる理由になると思った。
 足つぼではなくても、健康っぽい何かなら何でもよかったかもしれない。

 未経験者OKの求人を見つけたので、行ってみた。話を聞くと、最初は教えるけど、講習に通ってほしいという事だった。
 給与は出来高制なので、ないに等しい委託という形態だと言う。
 個人でやっているので、収入に期待は出来ない。チラシ配りもある。

 期待値が低かったので、それでいいと承諾した。

 給料は期待していないが、講習を受ける前に基本だけは教えてくれるだけでもいいと思った。
 講習の金額はなるべく抑えてくれるので、それもいいなと思った。

 お客の呼び込みに接客、全く出来る気がしなかったが、そんなにお客が来る店でもなかったので負担も最小限で済んだ。
 チラシ配りは楽しかったので、そこまで負担ではなかった。

 講習は泊まり込みで2日間。3日間コースもあるらしいが、それは受けなかった。
 部屋は一人部屋にしてもらった。他人と一緒は無理だった。
 講習に来る人は、ほとんどが知り合いのようで誰が師匠なのかという話が飛び交っていた。
 誰かに基本を教わってからここに来ている人がほとんどで、『出来て当たり前』のような空気が出来上がっていた。

 座学では解剖のビデオを見た。一般の人がなかなか見る事の出来ない『医学生用』のビデオだった。
 言語は日本語ではなく、ドイツ語だったので話している意味はさっぱり分からない。
 人の皮をはぎ、内臓を取り出し、一つ一つに対して何か言っている。脂肪は黄色いという事を初めて知った。
 このビデオだけでも講習に来た甲斐かいがあったと思えた。
 持参した人体解剖図を手元で開きながら、解剖ビデオを見るのは至福の時間だった。

 他の講義はつまらなかったので、内職をしながら聞いていたら注意をされてしまった。解剖以外に興味が持てる話は出てこなかった。

 講習が終わって、基本の知識は得たが、実際にお客に施術出来る自信はなかった。
 何人かに無料でやってみて、それで終わってしまった。


 今では足つぼを誰かにやろうとは思わないし、足つぼの場所もほとんど忘れてしまった。




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